ep.75「岩肌の星」
地面に三点着地で、轟音を立てながら着地する。
「いってえええ!」
指と膝を押さえながら、硬い地面の上を転がりまわる。
格好つけて着地したが、指と膝にとんでもない痛みが走る。骨に異常はなさそうだが、二度としないと心に誓った。
ゆっくりと立ち上がり、あたりを見回す。
どこまでも岩の地面が続き、建造物や生物は見当たらない。
太ももにつけたプラスチック製の細長い棒を取り、蓋を開ける。何でも、青く染まれば人間が生きていける環境だとわかる優れものらしい。赤く染まると、人間が居てはならない環境だとか。
蓋を捨て、軽く上にあげながら振る。青色だと嬉しいんだが。
プラスチックの棒は青色に染まった。頭につけたヘルメットをそのあたりに投げ、手ごろな岩に座る。
『お……坊主。聞こえて…か?』
投げたヘルメットから声が聞こえてくる。手でヘルメットを拾い上げ、無線機を無理やり取り外して口元に当てる。
「はいはい、聞こえてます。とりあえず安全そうな星に入ったので、ひとまずは大丈夫です」
『そ…か。少し待って…くれ、金を集…たら迎…に行く』
無線機の電源を切り、立ち上がる。
伸びをしながら、大きく息を吸う。しかし、近くの恒星が爆発したというのに、何も異常がないのは不思議だ。
地球で言うなら太陽が爆発したようなものだが、気温も光の量も、人間が住めるような状態で保たれているのは、少し気になる。
ヘルメットを頭に被りなおし、虫取り網を右手に持って軽く走る。
昔は全力疾走でやっと海の上が走れるぐらいだったが、今は小走りでも余裕で走れるようになった。人間をやめている気がしないでもないが、今更だろう。
しばらく走っていると、大きな丘が地平線の向こうに現れた。
しかもその上に、小さく人の背中が見える。
「……誰だ?」
そう呟きながら岩の前で足を止め、その人を見上げる。
緑色の髪を後ろで纏めた、赤い民族的な服を着たそいつ。ゆっくりとこちらを振り返り、驚いたように目を大きく見開いた。
「……ルマル・ジュスティス……」
「君は、侵略隊の……」
ルマル・ジュスティスは何かを食べていたのか、口の回りが若干汚れている。
お互いの視線の間に、微妙な空気が流れ始める。
「……とりあえず、君じゃ私に勝てないし、私もこの場所では暴れたくない。一緒にラーメンでも食べないか?」
そう言いながら、綺麗な空のどんぶりを一つ見せてくるルマル。
絶対に勝てないのは確かだが……ぐぬぬぬ。
頭を押さえながら悩みに悩んだ末に、溜息を吐きながら言った。
「わかった、ご馳走になるよ」
ルマルに敵意はなさそうなので、一応は警戒を解いた。戦うにしろ、虫取り網しか持ってない今では、一秒生きていられるかどうかだろう。
丘の上に登り、ルマルからどんぶりと乾燥した麺を受け取る。
どんぶりの中に、乾燥してブロック状になった麺を入れる。
「はい、お湯とスープのもと」
袋に入った粉末状のスープのもとと、ポットに入ったお湯を渡される。
トポポと、どんぷりにお湯を注ぎ、スープのもとの袋を指で弾きながらお湯に入れる。
通気性の低い布で蓋をし、ルマルの方を向く。
「口元汚れてるぞ。あと、なんでラーメン?」
「好きだから……」
ズルズルと麺をすすりながら、ポケットから出したハンカチで口を拭うルマル。
ルマルがひときわ大きなチャーシューをほお張ったところで視線の向きを変え、丘の下に広がる景色を眺めた。
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