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ep.74「モルテ恒星」

「綺麗ですね~……」


 身がチリチリと焦げるような熱さに包まれているが、それすらも忘れさせるような恒星。

 青く輝くそれは、遮光ガラスごしでも息が詰まるような美しさを放っていた。


 宇宙服を着て、宇宙船の上に座りながら、恒星が爆発するのを待っている。

 もちろん命綱は着ているので何も心配はない。


「本当に綺麗だヒン……水樹にも見せたいヒン」


 横では、プフェーアトさんが恒星をうっとりと眺めていた。

 無線越しに聞こえてくる声には、当たり前の様に水樹さんの名前が入っている。


「プフェーアトさん、最近水樹さんのことばかり気にしてますね。どうしたんですか?」

「い、いや別に……なんでもないヒン」

「なんでもないことないでしょう。以前は水樹さんとよくじゃれあってたのに、最近全然しないじゃないですか」


 プフェーアトさんが、プイッと顔を逸らす。

 まぁ、大体の理由はなんとなくわかる。おそらく、プフェーアトさんだけが水樹さんのことを意識し始めたとかそんなあたりだろう。その証拠に、水樹さんはいつも通りの調子でプフェーアトさんに絡んでいる。

 もし、痴情のもつれがあったならばそうはならない。そんなことがあったら水樹さんもよそよそしい態度になるはずだ。


 つまり、理由を知っている上でする、ただの悪戯だ。プフェーアトさんの肩を小突きながら、さらに問い詰める。


「やっぱり、何かあるんでしょう?」

「ななな、何もないって言ってるヒン! ちょっと体の調子が悪いだけだヒン!」


 プフェーアトさんが返答に困って逃げ出そうとするのを、足を掴んで引き止める。

 口元に手を当てながら反応を楽しんでいると、宇宙服に仕込まれた無線から声が聞こえてきた。


『二人とも、丸聞こえだ。それと坊主、あまり悪戯はするんじゃないぞ』


 無線機からフュジさんの声が聞こえる。

 軽くプフェーアトさんに謝ってから、どっかりと宇宙船の上にあぐらをかいた。

 恒星は先ほどよりも少し大きくなっていて、風船が破裂する寸前のような状態になっている。


『もうすぐ恒星が爆発するぞ。揺れるからしっかりと捕まっとくんだ』


 フュジさんの言葉通り、命綱をしっかりと握る。

 体に巻きつけてもいいのだが、その場合下手すると体のほうがねじ切れるんだとか。恐ろしい。


『もう一度確認するぞ。散らばった金をできるだけ取りまくれ。以上だ』


 無線機が切れる。


 瞬間、恒星がまばゆい光をあげる。

 とんでもない爆風で宇宙船が大きく揺らされ、

 手を目元に当てながら、スーパーで買った虫取り網を握る。特売品だが、かなり乱雑に扱っても壊れなかったので大丈夫だろう。


 光が少し弱まり、手を目元からどけて恒星を見る。

 強く輝く青い光が宇宙を照らした。そこから散らばるように、無数の輝くチリが広がっていく。あれがお目当ての金だろう。


『ハハハハハ! 最高速度で突っ込むぞ!』

『わっ、馬鹿お前リティ! ワシの無線を奪うんじゃ――』


 無線機からリティさんの笑い声が聞こえた瞬間、宇宙船のブースターに火が灯り、一気にチリに向かって発進する。

 その反動で船体に体が叩きつけられ、その弾みで命綱がブチリと千切れる。


「あっ!」


 時既に遅く、プフェーアトさんが手を伸ばしてくれるが、圧倒的な速度で宇宙船が遠ざかっていってしまった。

 酸素ボンベの残量を確認し、溜息を吐く。残り二十パーセントもない。

 以前の安っぽい宇宙服とは違い、今回着ているのは最新式のものだ。大気圏を突破しようが全く問題ないレベルの耐久性を誇っている。


 首だけを動かして周りを見回すと、比較的安全そうな星を見つけた。

 火星のように岩石がむき出しで緑が一切ないが、テネーブル星の様な感じではない。


 背中に少しだけ残った命綱を引きちぎり、虫取り網の持ち手にくくりつける。

 近くに浮遊していた岩石を虫取り網で捕まえて引き寄せる。


「よーし……」


 網の中から岩石を取り出し、重さを確かめる。

 質量と重力は別物で、質量が大きいものは宇宙空間でも動かすのが難しい。人間が宇宙で隕石を動かすことはできないのと同じことだ。


 岩石を空中に浮かべ、ゆっくりと足をかける。

 両足で勢いよく踏み、星に向かってジャンプする。

 結構な速さで飛べたため、すぐにでも星につけそうだ。腰にいつもの剣はつけていないが、多分何もないだろうし、最悪虫取り網を使って戦おう。


 目の前で十字架を切りながら、星の重力圏に突入した。


 


 


 

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