ep.72「激しいお宝」
湯気が漂うコーヒーを飲みながら、背もたれに体重をかける。
リビングの暖炉前は、いつの間にか本を読むのに絶好な場所となっていた。今の時間帯は人も居ないし、静かな世界をゆっくりと楽しめる。
コーヒーを補充しようと立ち上がった瞬間、静かな空気をぶち壊すような喧騒が庭園から聞こえてきた。
暖炉の前の机に本を置き、窓から庭園を覗いた。
「ちょっと、うるさいですよ! 何やってるんですか!」
「お、坊主。いいところに」
庭園の中心あたりで、フュジさんが片手にスコップを持ちながら手を振ってくる。
その周りには、リティさんにメノンさん、プフェーアトさんやネギブアさんもいる。
「いや、本当に何やってるんですか」
「ネギブアがこの下に何か埋まってるっていうんだよ。配管が通っている様子もないし、ワシもずっとこの建物にいるわけじゃない。もしかしたら、お宝かもしれないだろ?」
発想が小学生だ。
「ごめんね、永宮クン。うるさかったかい?」
「大丈夫ですよ」
「永宮も手伝うヒン! 金銀小判だったらその剣の磁力ですぐに引っ張れるヒン!」
たしか、金銀は磁力が反応しなかったはずだ。しかし、このまま作業を続けさせれば再びうるさくなる。
窓枠に足をかけ、庭園に向かって飛び降りる。
地面が柔らかいので、足への負担はほとんどない。音もほぼさせずに着地した。
「ここですか?」
「そうそう。そこよ」
「一体何が埋まってるんだろうなぁ……ワシ、久しぶりにワクワクしてるぞ」
鞘から剣を抜き、地面に深く突き刺す。
剣の先に磁力を強く発生させると、本当に地面の奥深くのところに、何かの手ごたえを感じた。
「どうだヒン?」
「確かに、地面の奥に何かありますね。結構大きくて……四角い何かが」
「古代の酒かもしれんな。もしそうだとしたら、数百年は寝かせた極上品だな」
メノンさんが酒瓶の中身をぐいっと飲み干しながら言った。地面に埋まっていた酒を飲もうとするそのメンタルと肝臓の強さは羨ましい。
両手で柄を握り、さらに磁力を強める。
瞬間、大きな音を立てながら窓が開き、大声が庭園中に響く。
「何やってんのあんたたち!」
剣を握りながら振り向くと、水樹さんがこちらを見ていた。
それと同時に、四角い何かがどんどんと地上に向かって上がってくるのを感じる。
「水樹~! 一緒にお宝を掘り当てるヒン!」
「やらないわよ。というか何? お宝って」
プフェーアトさんが手を振りながらそう言うが、水樹さんが腕を組みながらバッサリと言い放った。
肩を落としながら庭園の隅に座るプフェーアトさん。以前はあんなに拗ねやすくなかったはずなのに……。
「この下に何かが埋まってるんだ。もしかしたらお宝かもしれないだろ?」
「はぁ? お宝も何も、その下に埋まってるのはニトログリセリンだけよ。私が数年前に、地下深くに密閉して埋めたっきりね」
ニトログリセリンを埋めた?
ダイナマイトとかに使われている爆発物をこの下に埋めただって?!
「ちょっと待ってくださいよ! じゃあ俺達が今掘ってるのは――」
剣の先に四角い何かが、カキンと甲高い音を立てながら当たる。
瞬間、庭園を白い光が包み込んだ。
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