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ep.??「シュバルツ・プフェーアト」

 シュバルツ・プフェーアト。

 この名前は、今の父さん。いや、養父さんに貰った名前だ。


 元々の生まれは地球で、育ちは月のスラム。

 顔の右半分の筋肉が露出しているという、奇形の姿でこの世に産み落とされた。

 おまけに右の眼球もなく、両親からは忌み嫌われ、生まれて一年も経たずスラムに捨てられた。


 幸運と言うべきか不運と言うべきか、生まれつき人より生命力が強かった俺は、何とか生き延びることができた。

 それでも、この奇妙な見た目のせいで、スラムの住人からも忌み嫌われ、迫害された。

 寝床を潰されるのはまだマシなほうだ。食料を盗られたり、服を破かれたり、酷いときには近くを歩いただけで殴られることもあった。


 喧嘩が弱く、体も貧相だった当時の俺は、大人に媚びつつ仕事を探した。

 靴磨きに麻薬の売買人、スリなんかもした。騙されて男娼にされかけたこともあったが、この顔のおかげで「商品にならない」と殴られるだけで助かった。あのときだけは、この顔に感謝した。

 


 ときには土を食べ、泥まみれの水をすすりながら生きていた、十二歳のときだ。

 いつものように仕事を探していたとき、筋肉質な若い男が話しかけてきた。


「坊主。名前は?」

「そんなものない」


 身なりと雰囲気からして、スラムに住んでいる人間じゃないことはすぐにわかった。

 踵を返して道を戻ろうとすると、腕を掴まれた。


「酷い目してやがるな……ちょっと来い」

「うわっ! なんだよ、やめろこの野郎!」


 ガリガリだった俺は、すぐに持ち上げられた。

 肩に担がれてしまい、必死に暴れるが、ビクともしなかった。


 その後、宇宙船に乗せられて地球に連れて行かれた。

 宇宙船の中は暖かくて白くて、スラムの暗くて寒い世界とは全く違う光景だったのを覚えている。


「シュバルツ・プフェーアト」

「は? 何だよそれ」

「お前の名前だ。お前は今日からシュバルツ・プフェーアトで、俺の養子だ」

 

 いきなり拉致されて名前をつけられ、麻薬をキメすぎた中毒者だと確信した。まぁ、実際は違ったわけだが。

 宇宙船から降りたところは、スラムとは比べ物にもならないほどの高い建物が並ぶ地球だった。

 悪臭が漂わず、綺麗な水がどこでもいつでも飲める。ここは天国かと一時は見紛うほど、感動した。


「よーし、ここが今日からお前の家だ」

「……オンボロだな」

「まぁそういうな。住めば都、っていうことわざもあるんだぞ」


 その家といわれた建物は、ところどころが崩れていて、庭も雑草が生え散らかっている、さっきの高い建物とは全く違うものだった。

 『侵略隊』と書かれたプレートの位置を直したのを覚えている。



 当時は、人が全くといっていいほどいなかった。

 ヴォラン・ヴェイキュルにリティ・インモータル。その二人が、俺よりも小さな赤毛の子どもを連れていたぐらいだった。


「よし、プフェーアト。俺の名前はゼバルだ。ゼ・バ・ル。わかるか?」

「わかってるよ」

「よしよし、父さんと呼んでくれてもいいぞ」

「呼ばねーよ。隊長でいいだろ?」


 そうして、地球に住みはじめた。

 しかし、どこにいってもこの顔が邪魔をしてくる。外を歩いていただけで殴られはしないが、汚物を見るような目を向けられるようになった。


 

「ふーむ……よし、これでも被れ」


 隊長が取り出したのは、奇妙な馬のマスクだった。

 埃が積もっていてゴム臭くて、本当にこんなものをつけるのかと思った。

 マスクの中は熱が篭って前が見づらくて、すぐに外したかった。 


「プフッ。よ、よーし。そのまま語尾に馬の鳴き声をつけてみろ、な?」

「う、うれしいヒーン……」

「プククッ。ブハハハハハッ!」

「何笑ってんだてめぇ!」


 すぐさま馬のマスクを脱ごうとしたが、上から押さえつけられて止められる。


「まぁ待てよプフェーアト」

「なんだよ! こんな臭えもの被ってられるか!」


 マスクの上から頭を乱暴に撫でられ、持ち抱えられる。

 そのときには貧相な体も、筋肉質な体に変わっていたというのに、本当に軽々と持ち上げられた。


「お前もいつか恋をするだろう。愛だよ」

「そんなのするわけないだろ!」

「マジメな話だ。正直に言うと、お前の顔は常人には怖がられる。たとえ好きな人ができても、相手はお前の顔を受け入れられないかもしれない」


 隊長がいつになく真剣な声色で話す。

 自分の顔の右側をマスクの上から触りながら、その話に耳を傾けた。


「だからな。もし好きになるなら、お前の顔を見ても全く怖がらない相手にしろ」

「けっ、そんな女いるもんか」

「いーや、絶対にいるね。女ってのはとんでもなく気の強い奴がたまにいるんだ」


 地面に俺の体を降ろし、両肩をポンポンと叩きながら言った。


「お前はな、俺の予言だが、そんな気の強い奴を好きになる。絶対にだ」

「そんな予言当たるわけねーよ、競馬だっていつも外してるじゃんか」

「ばっ、馬鹿お前! あれはまた違うだろ!」


 二人でお互いの顔を見ながら笑いあった。向こうは俺の顔が見えていないが。



 そうして、地球に住んでから四年が経った。十六歳だ。

 隊長の養子になった日からずっと来ていなかった、スラムに足を運んでみた。


 相変わらず暗い雰囲気が漂っている場所だったが、懐かしい感じも味わえる不思議な場所だ。

 たまにはこういう感傷に浸りに来るのもいいかもしれない。


 寝床にしていた場所などを見て、懐かしい気分を一通り味わったあとだった。

 スラムの中心の一本道、大通りを歩いていたときだ。


 汚い格好をした少年と少女が、不自然なぶつかり方をしてきた。

 俺も何度もやったことがある、スリの常套手段だ。


 薄い緑色の髪を生やした少女の肩を掴む。

 すると、金髪の髪の少年が襲いかかってきた。


 右腕に噛み付いてくるが、昔の俺と同じように貧相な体で、力は全くない。すぐに振りほどき、少女からすられた財布を奪い取る。


「なんだよお前……! その格好、地球に住んでるんだろ! 僕達に少しぐらい分けろよ!」


 金髪の少年が、少女を庇うように立って叫ぶ。

 擦り切れた服の合間から見える肌には、殴られた青紫の跡が大量に見えた。

 ……なるほど、隊長が俺を拾ったのはこういうことだったのか。

過去の自分と重なるデジャブを感じながら、右手をそっと少年と少女に差し出した。



「俺の名前はシュバルツ・プフェーアトだヒン。まったく、酷い目をしてるヒン。ちょっと来るヒン!」

 

永宮視点の話ではないので、??にしました。

改善点などあればご指摘頂けると嬉しいです。

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