ep.70「素顔」
プフェーアトさんは、島の端で佇んでいた。
聳え立つ氷の壁が恒星の光で照らされるのを、あぐらをかきながらボーッと眺めている。
「何一人で黄昏てんのよ、プフェーアト」
水樹さんがプフェーアトさんの横に座った。
クーラーボックスが行くのはかなり間抜けな絵面になるので、背後から水樹さんたちを見守ることにした。
「……班長がいなければ、三人ともあそこで死んでたヒン。俺が弱いばっかりに……」
「何言ってるのよ。あんなの相性が悪すぎただけでしょ、気にすることないわよ」
水樹さんが右肩でプフェーアトさんを押した。
それでも微動だにせず、ずっと氷の壁を眺めている。
「そもそも、俺が冷静さを失ってなければ……。あそこでしっかりと考えてから動けていたら……」
「あーもー! うっとおしいわね、たらればの話をしたってしょうがないでしょ?! それに全員生きてるんだから問題ないじゃないの!」
大丈夫か、水樹さん。励ましにいくはずだったのに説教してるぞ。
「これは俺のプライドの問題だヒン!」
「そのプライドがくだらないって言ってんのよ!」
プフェーアトさんが声を荒げ、水樹さんに掴みかかる。
服を掴まれたままでも、水樹さんは声を大きくしながら言った。
「ずっと女々しくウジウジしてるなんてあんたらしくないのよ、プフェーアト!」
水樹さんがプフェーアトさんの手を払いながら叫んだ。
「水樹に俺の何がわかるヒン!」
「あんたの顔以外は大体知ってるわよ! ちょっと前にこっぴどく失恋したとかもね!」
言って大丈夫なのかそのこと。
プフェーアトさんはその言葉に焚きつけられたのか、自分のマスクに手をかけた。
「じゃあその最後の謎も解かしてやるヒン!」
マスクを右手で掴み、思い切り上にあげる。
背後からずっと見ているため、また金髪しか見えず肝心の顔が見えない。
「……酷い顔だヒン」
「はぁー……そんなしょうもないことで素顔隠してたの? あんた」
「しょ、しょうもないとはなんだヒン!」
プフェーアトさんがマスク片手にそう言った。
水樹さんはあきれ返ったような声で、素顔を指差しながら話した。
「私達がそんなことであんたを迫害すると思ったの?」
「えっ……」
「そんなのを怖がるのは、元々肝っ玉の弱い奴よ。少なくとも、私はなんとも思わないわ」
水樹さんがそう言うと、プフェーアトさんは頭を乱暴にかきむしった。
肩を少しだけ震わせながら、下を向いて動かなくなる。かすかにむせび泣く声が、こちらまで聞こえてくる。
「ま、私は先に宇宙船に戻ってるわ」
水樹さんがプフェーアトさんから離れていく。
しばらく経ってやっとむせび泣く声が止まり、プフェーアトさんが氷の壁の方に視線を向ける。
真っ赤にした耳を隠すように、再びマスクを被った。
「……隊長、本当だったヒン」
プフェーアトさんが小さく、本当に小さくそう呟いた。
改善点などあればご指摘いただけると嬉しいです。