ep.69「二時間四十六分四十秒」
班長が一歩前に進むごとに、ポウニンが一歩後ずさる。
「キル・テュエマタール……!」
手足を震わせながらそう言ったポウニン。
「もう一度言う。何秒かけて死にたい?」
「……ざっと一万秒ぐらいは生きたいでござるな!」
ポウニンが班長の足元を凍らせ、工場の扉に向かって逃げようとする。
班長が空中に浮かばせている剣の一つを、ポウニンに向かって放った。
「一万秒か。ざっと二時間とちょっと……いいだろう。お望みどおりにしてやる」
ポウニンの体を剣が貫き、ドリルの様に回転し始める。
痛々しい悲鳴が肉片が散らばる音が工場内に響き、思わず耳を抑えてしまう。
「よし、お終い。水樹、永宮君。大丈夫かい?」
班長が手に持った剣を鞘にしまってから話しかけてくる。
懐から取り出した包帯を水樹さんの頭に巻き、ぺちぺちと頬を叩いている。
「いやまぁ、どっちかっていうと大丈夫ではないですけど……」
「んー……ああ、氷で血が止まってるから生きてるのか。オーロに頼んでおくよ」
班長がこちらを見てそう言ったあと、襟についた無線機に話しかけている。
水樹さんが頭を抑えながら起き上がり、近くに落ちていた黒い円盤を拾う。
「私の右腕がなくなってるわ……まぁいいけど。ほら、プフェーアト、起きなさい」
班長の肩を借りがら立ち上がる。
水樹さんがプフェーアトさんの頭を蹴って起こそうとしている。やり方が雑だ。
「ん……こりゃまた随分と酷い殺し方をしているんだね~」
「自分で望んだことだ。何も酷くない。あとまだ生きてる」
オーロさんが、班長の開けた大穴から入ってくる。
依然として悲鳴をあげているポウニンの方を見ながら、肩にさげていたものを地面に降ろした。
とても大きな、小さなタイヤが四つついた青色のクーラーボックスだ。
「ちょっと待って下さい。まさかそれに入るんですか?」
「そうだよ。冷蔵庫のほうがよかったかい?」
このままでいれば氷が溶けて死ぬのはわかるが、クーラーボックスに入るのも人間としてどうなのだろうか。
渋々と足を折り曲げて、クーラーボックスの中に入る。意外に快適なのが非常に憎い。
小さなハンドルが目の前についていて、その上にはモニターがある。
モニターには、凍りついた地面の風景が映されていた。
「なんか中にハンドルがあるんですが、何ですかこれ」
「いい質問ね永宮クン! あれ、見えてるかしら?」
モニターに水樹さんの顔がアップで映る。
「私が暇なときに作った動くクーラーボックスよ。そのハンドルを動かせば適当に走るわ」
こんなピンポイントな道具よく作りましたね。
ハンドルを動かすと、ガラガラとクーラーボックスの中に振動が伝わってくる。
「プフッ。英史君が宇宙船を持ってきてくれてるから、各自適当に動いていいよ。工場とヒュイド族は僕が始末しておくから」
「今笑いませんでした?」
班長がそう言うと、起き上がったプフェーアトさんは大穴からすぐさま出て行った。
水樹さんと一緒に、あとを追いかける。
……本当に情けない。
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