ep.68「工場」
ゴウンゴウンと、大きな換気扇が回る音が工場内に響く。
工場の中は、テネーブル星とは比べ物にならないほどの設備が整っていた。
大量の機械で完全自動化が施され、現在進行形で例の首輪などが作られている。
「これは……敵ながらすごい設備ね。いくつか貰っていこうかしら」
水樹さんがひときわ大きなアームを眺めながら言った。
幸いにも工場内に暖房は通っておらず、極寒とも言うべき寒さになっていた。水樹さんやプフェーアトさんにとっていいかはわからないが、少なくとも氷が溶けないのは好都合だ。
「ふむ。まさか生きていたとは思わなかったでござる」
巨大なアームの上に、ポウニンが姿を現す。
「体全体が抉れて、よく生きていられるでござるな。まるで化け物でござるよ」
アームの上から飛び降り、地面に音もなく着地する。
ポウニンが足をつけたところから地面が凍りだし、工場内の全てが凍りつく。機械も、換気扇も、空気さえも。
キラキラと光るダイヤモンドダストが宙に舞い始めた。
「水樹!」
「わかってるわよ!」
プフェーアトさんが体を少し荒めに地面に降ろし、ポウニンに向かって駆け出す。
左手を地面につき、両足でポウニンの頭を両方から挟み込む。
固定されたポウニンの頭目掛けて水樹さんが、黒い円盤を投げた。
「うーん、甘いでござるな」
ポウニンが両手で頭を挟んでいる足を掴み、プフェーアトさんを頭から地面に叩きつける。
円盤を足で蹴り飛ばし、水樹さんの脳天をかかとで打ち抜いた。
「そこの化け物はこないでござるか?」
倒れた水樹さんの頭を踏みながら、こちらを指差してくる。
左手で地面を強く叩き、空中に飛び上がる。
体を回転させながら位置を調整し、ポウニンの頭目掛けて右足を振り下ろした。
「そんな体でいきなりかかと落としとは、舐めているのでござるか?」
あっさりと右手でかかとを掴まれ、ビキビキと音が鳴りながら右足が凍り始めた。
左手に縛り付けた剣で、勢いよく凍った右足の先を斬りおとす。
「む。肝っ玉が強いというか思い切りのよさというか、いい判断をしたでござるな。少しだけ弱めてやるでござる」
地面に落ちる途中の、ほんの一瞬の滞空時間。
側頭部にハイキックを決められ、側転のように回転しながら吹っ飛んでしまった。
背中を強く壁に打ち、ずるずると地面に倒れこむ。
左手のすぐ横には、水樹さんの黒い円盤が転がっていた。
「侵略隊といっても、こんなものでござるか?」
ポウニンが水樹さんの頭を強く踏みつけながら言った。
足の下にある水色の髪がグシャグシャに乱れる。
「ポウニン……お前!」
プフェーアトさんが立ち上がって、添え木をつけたままの右腕で殴りかかる。
あっさりと捻りあげられ、ポウニンが人差し指を口の前で動かしながら言った。
「頭に血が上っていては拙者には勝てないでござる……よ!」
再びプフェーアトさんの右腕から、骨の折れる音が響く。
「あらそうかしら! よくも人の頭を踏んでくれたわね!」
水樹さんがポウニンの足首を掴み、地面に引き倒す。
左手を膝に、右手を足首に当てて、右手を思い切り上にあげる。
プフェーアトさんに負けず劣らない音と共に、ポウニンの右足をへし折った。
「永宮クン! それ投げて頂戴!」
水樹さんが叫ぶ。
左手で黒い円盤を掴み、勢いよく投げつける。
受け取った円盤をポウニンの頭に押し付けようとするが、腕を掴まれて止められてしまう。
「いたた……危ないでござる。それを頭に押し付けられてしまうと、脳みそが潰れるはずだったでござるな」
水樹さんの右腕を凍らせ、粉々に粉砕する。
こめかみを掴み、地面が揺れるほど強く叩きつけた。
ドクドクと血が頭から流れ出し、ピクリとも動かなくなる。
「もう全員倒れたでござるか。まったく、つまらな――」
ポウニンの背後の壁が、轟音をとどろかせながら崩れる。
白い煙を口から吐きながら、右手に剣を持った男性が入ってくる。
「……ヒュイド族。何秒かけて死にたい?」
班長が六つの剣を背後に飛ばしながら、ポウニンに剣を向けた。
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