ep.66「ポウニン」
上着を一枚脱ぎ、剣を右腕に縛り付ける。
「ありがとうございます。それより、あのポウニンとかいう奴を何とかしないと」
「わかってるヒン」
プフェーアトさんが周りを見回す。
森の中は物音が一つもせず、倒れたまま凍った木々と相まって幻想的な空間になっている。
吐いた息は白くなり、空へ向かって漂っていく。
「……今のところは近くにいないヒン。進むヒン」
プフェーアトさんが森の奥に向かって歩き出すのを、肩を掴んで止める。
「危険すぎますよ! ここでポウニンを迎え撃つのが一番安全です!」
「今回の作戦は、製造ラインを破壊することだヒン。ヒュイド族を始末するよりそっちを優先するヒン」
手を振り払いながら、森の奥へずんずんと進んでいくプフェーアトさん。
頭をかきながら、背後を警戒しつつあとを追いかける。
いつもより歩幅が大きいプフェーアトさんは、どことなく焦っているようにも見える。
「シュバルツ・プフェーアトでござるか。警戒するほどでもなかったでござる」
突如、ポウニンが腕を組みながら目の前に姿を現す。
俺の額を指差しながら、あざ笑うように話す。
「そのお荷物を抱えて戦うなど、漫才でもするつもりでござるか? 拙者はそんなに甘くないでござる」
プフェーアトさんが駆け出し、木にやじりを突き刺しながらポウニンに飛びかかる。
その下をスライディングしながら、ポウニンの脛を剣でなぎ払う。
瞬間、辺りの空気そのものが凍りつきそうなほどの冷気が走った。
一瞬にして服が凍りつき、髪の毛が白く染まる。
「甘い甘い。ショートケーキのように甘いでござる」
ポウニンがプフェーアトさんの右腕を掴み、大きく音を鳴らしながらへし折った。骨が肘から飛び出して、血が大量に流れ出ている。
すぐさま立ち上がって左手でポウニンの首を掴み、力強く絞める。
「自己流のマッサージの紹介でもしたいでござるか? もう少し力強い方が好みでござる」
足の先まで痺れるような力強い頭突きを決められ、地面に崩れる。
プフェーアトさんの痛々しい声が聞こえてくる。
「永宮に何してるヒン……!」
ポウニンの顎先を蹴り上げながら、プフェーアトさんが地面に着地する。
みぞおちを思い切り殴り、糸で首を縛る。
「その糸、もう少し寒さに耐えれるようにしたほうがいいでござるな。おがくずのようにバラバラでござるよ」
ポウニンが首に縛り付けられた糸を、顔色一つ変えずに凍らせる。
砂のようにボロボロと崩れ落ちる糸を眺めながら、プフェーアトさんの顔面を殴る。
あまりの速さと勢いに、凍った木をいくつも破壊しながら吹っ飛んでいってしまった。
「氷っていうのは、止血にも使える優れものでござる」
頭を持ち上げられ、木にもたれかかるように立たされる。
先ほどの頭突きのせいで、未だに体が動かない。
「拙者が思いつく最高の惨い殺し方でござるよ。楽しんでほしいでござる」
ポウニンが右の拳を、素早く前に突き出した。
腹部を余裕で貫通し、激しい痛みが体全体に走る。
ゆっくりと手を引き抜くが、腹の傷から血は一滴も流れ出ない。
「さよならでござるよ」
ポウニンが、両方の拳で何度も何度も殴りつけてくる。
一つ一つが銃弾の様に速く、体を貫通しては凍らせながら引き抜かれる。
右の肩が深く抉れ、右腕がボトリと地面に落ちる。
左の太ももはもう皮一枚で繋がっている状況だ。
腹部は工業用のドリルでも当てられたかのように、ミンチ肉のごとく赤々しくなっている。
首の右辺りが貫かれた瞬間、意識がブツリと途切れた。
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