ep.64「寒き森」
大きな木の近くで、エンジンを止める。
この島は、一面が鬱蒼としたジャングルになっている。何かを隠すなら、ここほどいい場所もないだろう。
右手で剣を抜き、草木を掻き分けながら森の中に入っていく。
「しかし、やけに暗いな……」
この星に浮かぶ島は、恒星の光が近くで当たるからなのか、基本的に影になる場所が少ない。たとえ影があったとしても、地球のように涼しくはない。
しかし、このジャングルは異様に寒い。本来は汗が出るほどなのに、ここはうっすらと鳥肌が立つほど寒い。
『こちらテュエマタート、各々何か見つけたかい?』
襟についた無線機から、班長の声が聞こえてくる。
『こちらオーロ、何もないね~』
『こっちも何もないわね。あ、こちら水樹』
『プフェーアト、何もないヒン』
どうやら、班長達はまだ何も見つけていないようだ。
無線機のマイクをオンにし、襟に口を近づけてから言った。
『こちら永宮、少し不審な森を見つけました。最初の島から南に行った島です』
『わかった。一番近いのは誰かな?』
『俺が一番近いヒン。すぐ行くヒン』
プフェーアトさんが一番近いようで、助けに来てくれるらしい。
無線機をオフにして、再び森の中を進む。
枝を踏み潰し、草をかきわけながら進むが、一向に何かが見える気配はない。
それどころか段々と寒さが増加している。
吐く息がいつの間にか白くなっているのに驚き、引き返そうとした瞬間。
ザザザッ、と草木が揺れる音が鳴った。
「誰だ!」
音のしたほうに剣を構えながら進む。
わざと足音を鳴らしながら近づき、腰の鞘を音がしないように抜き取る。
左手のスナップを利かせながら、思い切り投げた。
「いったぁーい!」
聞き覚えのある声がする。
頭に大量の葉っぱを乗せながら、そいつが立ち上がった。
「……ロジー」
もう何度目だよ。
行く先々の星で会っている気がして、少し憂鬱な気分になる。
「何よぉ、その表情。こんな可愛い乙女と何度も会って、嬉しいと思わないのぉ?」
「会うたびに死にかけてるのに、嬉しいと思うわけがないだろ」
ロジーが頭の葉っぱを手で払いのけながら、草の中から出てくる。
以前斬った右足には、ロボットのような禍々しい見た目をした義足がついていた。
「でも、私は今日は本当に戦うつもりはないのよぉ」
眼鏡の位置を手で直しながらそう言ったロジー。
「私、これでもヒュイド族の開発責任者だからさ。今回は、あの子が戦うの」
ロジーが右手で森の奥を指差す。
黒い、忍者のような服で全身を包んだ男が立っていた。
「じゃあねぇ。それに、そんなに急がなくてもいずれ戦うことになるしね」
右手を振りながら森の奥に消えていくロジー。
追いかけようとした瞬間、目の前を小刀が通過する。
「お主の相手は拙者でござるよ」
木を足場にしながら、恐ろしい速度で迫ってくる忍者。
小刀を逆手で振り上げてくるのを、柄で受け止める。
「拙者、ポウニンと申す。よろしく頼むでござるよ!」
煙幕を撒き散らしながら、姿を消したポウニン。
手がかじかんで動きにくくなる。
上着を一枚脱ぎ、剣と手を無理やり縛り付ける。寒さより剣を握ることのほうが重要だ。
歯を強く食いしばり、凍るような寒さに身を震わせた。
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