ep.63「シエルイル星」
プフェーアトさんと、いつもどおり宇宙船の外で見張りをする。
いつも持っているたい焼きの袋を持っていないのは、失恋したせいだろう。身にまとう雰囲気が少し重い。
「……はぁ」
プフェーアトさんの口から溜息が漏れる。
もう見ていられないので、視線を無理やり周りの景色に移した。
シエルイル星は、一面水に覆われた星だ。
水上のあちこちに大きな島が浮かんでいるという、とても不思議な星だ。
「……そんなにこの顔が怖かったヒン……」
顔を膝にうずめながら、そう呟く。
視線を別の方向に向けてもダメージが来るとは……。
重苦しい空気に胃が限界を迎えそうになったとき、班長が宇宙船の中から顔を出す。
「二人とも、中に入って」
とぼとぼと歩くプフェーアトさんを追い越して、先に宇宙船に入る。
「よし、手短に説明しよう。この輪っかの製造ラインを探して潰す。これが今回の作戦だ」
班長が例の輪っかを出し、そう言った。
全員が動き出そうとした瞬間、いつもは口を出さない英史が言葉を発した。
「一つ聞きたい。僕達の敵は、ヒュイド族なのか? 裏切り者なのか?」
「……どっちもだ。だが、今はヒュイド族を始末することだけを考えよう」
あの拷問で発覚した、裏切り者のことは侵略隊全員に知れ渡った。
班長達で会議をした結果、裏切り者のことは一旦後回しになり、ヒュイド族の始末を優先する方針となった。
「じゃ、解散!」
宇宙船から出ると、水樹さんがバイクの横に腕を組んで立っていた。
きっちりと六人分ある。
「水樹さん、それ……」
「スカイバイクよ。ま、空飛ぶバイクね。この星の島のどこに製造ラインがあるかわからないし、あったほうが便利でしょ?」
水樹さんが鍵を投げてくる。
右手で受け取り、バイクにまたがりながら言った。
「これ、買ったんですか?」
「貯蔵室の酒はいいお金になったわ。じゃ、私先行くわね!」
水樹さんは、エンジンを吹かしてから飛んでいってしまった。
というか貯蔵室の酒がなかったのは、水樹さんが全部売り払ったからなのか……。
鍵を回し、エンジン音を響かせながら、バイクを走らせる。
とりあえず、この島から南に行ったところの大きな島から探してみよう。
星を覆っている水は、はるか下だ。数キロは離れているんじゃないだろうか。
落ちればタダではすまないし、二度と島に戻ってこれないだろう。
体に寒気が走ったのを無視し、ハンドルを勢いよく捻った。
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