ep.62「拷問」
「ピース団の団長……名前は言わなくていいわ。知ってること洗いざらい話しなさい」
水樹さんが、若い男の前にしゃがみながら言った。
しかし、男は首を横に振る。
「あらそう。リティ」
「わかっている」
リティさんが右手を大きく開き、いきなり自分の腹に突き刺した。
血が噴き出すのを意にも介さず、自分の体から蠢く肉塊のようなものを抉り出した。
それを、団長の腹に突き刺し、捻りこむ。
「あれ、何やってるんですか?」
「リティは自分の体の中にある、超再生バクテリアってのを他者に与えることができるんだね~。与えられた相手はしばらく不死になるんだね~」
つまり、あの動きは相手が死なないようにしてるのか。
腕を組みながら、拷問を見続ける。
「準備完了だ」
「ありがと、リティ。よい――しょっと!」
水樹さんが、黒いお盆を持った右手を大きく振りかぶる。
勢いをつけたまま、腹部から血を流し続けている男の胸を思いっきり叩いた。
「ああぁぁぁああああぁぁ!」
男の悲鳴が、地下一階の全体に響く。
白目を向き、ズボンが濡れ始めた。失禁したのだろう。
「水樹さん、何叩いたんですかね?」
「心臓」
班長が耳を軽く押さえながらそう言った。
心臓を叩かれるとあんな風になるのか…… 少し寒気がした。
「おーい。……戻らないわね、もう一発行こうかしら」
「す、すまない! 話すからもうやめてくれ!」
水樹さんが再び振りかぶった瞬間、男がいきなりわめきだした。
恐らく、狸寝入りをして逃れようとしたのだろう。
「ピース団の団長、あんたに聞きたいことは…… 班長、なんだっけ?」
水樹さんが振り返って、班長に問いかける。
班長が溜息をつきながら、腕を組んで言った。
「ドラケニクス王星のことだ」
「そうそう、ドラケニクス王星。知ってること全部話しなさい」
男が、怯えた様子で話し始めた。
「し、知らねえよ! 第一、いきなりここに連れてこられ――」
水樹さんが再度叩いた。
再び男の悲鳴が響く。
「あんた、調子乗ってるんじゃないわよ。話し方は穏やかに。それと、知らないっていう言葉は忘れたほうがいいわよ」
白目をむいている男の頬を思い切りビンタして、顎を下から掴む。
犬にしつけでもするかのように言ったあと、思い切り右足で頭を蹴った。
「も、もう勘弁してくれよ……」
「知ってること全て話したら、すぐにでも解放してあげるわ。さ、早く」
「ほ、本当か?」
男が信じきった表情で言った。
飴と鞭の使い分けが上手いのは、さすがに拷問を負かされているからだろう。
「し、知ってるっていっても、俺達が頼まれているのは、ドラケニクス王星に物を運ぶだけなんだ……」
「へぇー、一体何運んでたの?」
「輪っか、輪っかだ。首輪とかペンダントとか、首につける飾り物ばっかりだ」
それを聞くと、班長は懐からあるものを取り出した。
水樹さんに取り出したものを投げる。
「その輪っかってのは、もしかしてこれかしら?」
「そ、それだ! それだよ!」
体を揺らしながら、水樹さんの持っているものに反応する男。
あれは、テネーブル星の住人がつけていたものだ。
「どこでこれを受け取っていたのかしら?」
「テ、テネーブル星とシエルイル星だ……」
シエルイル星。初めて聞く星の名前だ。
恐らくそこが、次の作戦の地だろう。
「そ、ありがと。他に何か知ってることは?」
「あ、あとは……そうだ! この前、ドラケニクス王星の奴と、知らねえ人間が話してたんだ。人の名前みたいなのをいくつも言ってた。キル・テュエマタール……? とかリティ・インモータルとか……ウォト・ネギブアとか……」
その言葉に、空気が一瞬で切り替わる。
「そいつの特徴を言いなさい。今すぐ!」
「わ、わかんねえよ。もうかなり前だし、記憶に残ってたのが奇跡なぐらいなんだ」
今の言葉の意味。
あまり考えたくないが、侵略隊の中に、ドラケニクス王星とやらに情報を流している者がいる。
「……リティ、片付け頼んだわ」
「任されたぞ」
水樹さんが牢獄の扉を開けて出てくる。
班長が歩き出した後ろを、ゆっくりと追いかける。
背後の牢獄から、叫び声が聞こえてきたが、心の中はそれどころではなかった。
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