ep.59「恋の行方」
「大変よ永宮クン! プフェーアトがついに決めそうだわ!」
水樹さんが部屋に飛び込んでくるなり、息を切らしながら大声で言った。
いつものことなので、本を閉じずに読書を続ける。
「麻薬ですか? 大変なんですねプフェーアトさんも」
「結構ブラックジョーク決めてくるようになったわね……違うのよ、告白って意味よ!」
その言葉に、読んでいた本を閉じて机に叩きつける。
すぐに立ち上がり、水樹さんと共に部屋の外に出る。
―――――
カランカラン、と氷同士が当たる音が鳴る。
「で、数時間ほど待ってるんですが……ダメそうですね」
いつもどおり、水樹さんのカフェの窓側の席に座っていた。
視線の先には、もちろん馬のマスクを被ったプフェーアトさんがいる。いつもより少し綺麗な服を着ていて、姿勢もピシッとしているので、告白に来たのはすぐに推測できる。
「もうすっかり夜よ。たい焼き屋ももう店じまいし始めてるみたいだし~…… 結局、告白しないのかしら?」
水樹さんが眠そうに、湯気が出ているコーヒーを一気飲みした。しかし、それだけで拭えるほど浅い眠気じゃなさそうだ。
もう帰ろうかと思った瞬間、プフェーアトさんが胸の前で十字架を切った。
そして、店じまいを終えて帰ろうとしているたい焼き屋の女性に向かって歩き始める。
「おおっ!」
驚きの声と共に、椅子から立ち上がる。
水樹さんも気づいたようで、窓に張り付き、食い入るように見ている。
「……女性、顔赤らめてますね」
「成功……っぽいわね」
プフェーアトさんが土下座しそうな勢いで、たい焼き屋の女性に頭を下げている。アレでは告白と言うより懇願といった感じだ。
「なーんか、こっぴどく失敗するか、恋愛ドラマみたいに成功すると思ってたから拍子抜けね」
「現実の恋愛って大体そんな感じですよ、水樹さん」
コーヒーを飲みながら、プフェーアトさんの方を見る。
ん?
「ブフッ!」
「ちょ、汚いわね永宮クン!」
「プフェーアトさんがマスク脱いでますよ!」
口元のコーヒーを袖で拭いながら、プフェーアトさんの方を見る。
馬のマスクを右手に持って、たい焼き屋の女性と話している。
ちょうどカフェに背中を向けているので、どんな顔なのかは見えない。
「プフェーアトさんって金髪だったんですね……」
「私も今初めて知ったわ……」
しばらく見ていたが、プフェーアトさんが素顔を見せたあたりでどんどん雲行きが怪しくなる。
あんなに顔が赤かった女性も、今では真っ青だ。というか、明らかにプフェーアトさんの顔を見て怖がっている。
「あ」
「逃げたわね、たい焼き屋の子」
女性はキッチンカーに乗って、逃げていってしまった。
プフェーアトさんはしばらく固まっていたあと、馬のマスクを被りなおし、とぼとぼと肩を落としながら歩いていってしまった。
「そんなにプフェーアトの顔が恐ろしかったのかしら?」
「あの身なりと性格からして、今世紀最大級のブサイクでもない限り、あんなことにならないと思うんですけどね……」
水樹さんとしばらく話して、今後この話はしないことになった。
しかし、プフェーアトさんの顔についての謎は、ますます深まるばかりであった。
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