ep.57「メノンの調整入り」
白い天井が真っ先に目に入る。もうこの状況も慣れっこだ。
上体を起こし、周りを見回す。しかし、この部屋には誰もいない。
「右腕……治ってる、よかった~」
竜との戦いで完全にちぎった右腕を見る。手のひらを何度も動かし、感覚を確かめる。
本当に、医療の進化とは凄いものだと改めて実感した。
「永宮君、稽古お疲れ様。本当にボロボロだったね」
班長が、果物が大量に入った籠を持って病室に入ってくる。
「いや、完全に殺す気でしたよね、班長。ヴォランさんに教えてもらった武術がなければ今頃どうなってたか……」
そう言うと、班長は笑いながらベッドの横にある椅子に座った。
こっちからすると全く笑えない状況だったので、その笑顔に少しイラッとした。
「ごめんごめん。けど、強くなるには死にかけるのが一番なんだ。その証拠に、以前とは比べ物にならないほど強くなってるだろう?」
多分死ぬような努力と間違ってると思います。そう心の中で指摘を入れたが、班長の言葉は確かに合っている。
竜との戦いで手にした、あの馬鹿力。今でも腕に残っていて、これからもずっと残り続けるだろう。少し違和感はするが、すぐに慣れる。
「確かに、強くはなりましたけど……もう少し説明してくれたっていいんじゃ……」
「今からあなたを半殺しにします、なんて説明してついてきてくれたかい?」
絶対しないだろう。というか意地でも逃げる。
そう言うと、班長はお見舞いの果物のバナナを食べた。そして持っていた鞄の中から細長い荷物を取り出す。
「これ、水樹から。竜を倒したお祝いに、さらに磁力を強くしたんだって。あと、メノンが余計な調整を入れた、とか言ってたよ」
メノンさん? 第一チームの開発担当で、何の研究をしているかいまいちわからない人だ。
布に包まれた剣を取り出し、少しだけ鞘から抜く。
以前と同様、光り輝く綺麗な剣だ。真紅の少しダサい鞘もそのまま。
「メノンさんはこの剣に一体何を?」
「さぁ。退院したら直接聞いてみるのがいいんじゃないかな」
班長はバナナを食べ終わり、椅子から立ち上がった。
「その感じだと、右腕は問題なさそうだね。退院は明後日だから、それまで安静にするように」
引き戸式の扉を、音を立てながら開けて退室する。
その後姿を見送りながら、籠の中のりんごを手に取った。
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