ep.54「圧倒的」
振り下ろしてくる右前足を、頭の上で両手を交差させて受け止める。とんでもない重さが体全体に伝わり、地面にヒビが入る。
両足に力を込め、一瞬だけ受け止めている右足を浮かせる。その瞬間に右に倒れるように転がって避ける。
すぐ横にある竜の足に、肘で思い切り叩くが汚れ一つつく様子はない。この鱗、今までに見たことがないほどの硬さを誇っている。
竜がいきなり後ろ向いたかと思うと、遠心力の力を借りて勢いを持った尻尾が右側から迫ってくる。右腕を頭の横に持っていき咄嗟に身を守るが、突き刺さるような衝撃が体に走る。
空中に吹っ飛ばされ、吐血する。その瞬間、竜が大口を開けているのに気がついた。身を捻って避けようとするが、舌で巻き取られるように捕まえられる。
上半身だけが飛び出した状態で噛み切ろうとしてくる竜の歯を、両手で止める。足で竜の舌を蹴り飛ばしながら、手に力を込める。
そのとき、下半身に尋常じゃない熱さを感じ、足の先に激痛が走る。あまりの痛みに力が緩み、竜の歯が腹に突き刺さる。
すぐに力を込めなおし、竜の歯を止める。腹からは血がドクドクと流れ出し、すぐにでも出血で意識を失いそうだ。
火事場の馬鹿力という奴なのか、手の血管が今までに見たことないほど浮き上がる。左右の腕に限界を優に超えた力が入り、竜の口を無理やりこじ開けた。
地面に着地し、穴の空いた腹を押さえる。
先ほど激痛を感じた足の先を見る。足が燃えながら溶けているところを見ると、竜の口の中で溶岩が当てられていたようだ。
痛みを消すように深呼吸をし、竜を睨む。
「このクソトカゲめ……」
そう呟きながら、左右の腕に篭った力を確認する。先ほど口をこじ開けたときの力が、まだ残っている。永続的なのか今だけなのかわからないが、この力があるうちに何とかしなければ勝てないだろう。
右足に力を込めて飛び上がり、竜の背中に飛び乗る。滑り台のように背中を滑りながら尻尾の先に辿り着く。
尻尾を脇に挟むように持ち上げ、足を大きく開く。上体を勢いよく捻り、筋肉がブチブチと切れる音を無視して竜を振り回す。
ジャイアントスイングの様に回転しながら、竜の体を壁に叩きつける。
穴全体を揺らすほどの衝撃で叩きつけたが、それでも傷はついていない。それどころか、尻尾を壁に当てて反撃をされる。
地面に倒れこみ、肌で地面の冷たさを感じ取る。全身が悲鳴をあげているのが聞こえてくる。
竜の足音がこちらに近づいてくるのがわかる。
ここで死んでしまうのだろうか……。そう考えながら、意識がゆっくりと薄れていくのに身を任せた。
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