ep.53「銀鱗竜」
両足を地面に同時につけ、転がりながら衝撃を地面に逃がす。
ゆっくりと立ち上がってから辺りを見回す。……が、見渡すも何も暗すぎて何も見えない。
服のポケットから小さなライターを取り出し、火を灯す。
火力が弱すぎて手元しか見えないが、光が全く無いよりもマシだ。
地面を左手で触る。力強く掴めばボロボロと崩れるが、岩の様に硬い。
優しく掴んでから、鼻の近くに持っていき、匂いをかいでみる。
ほんのりと香るこの悪臭。これは、乾燥したうんこだ。
「グルルルゥ……」
腰を少し落とし、地面をライターで照らしながら歩く。
どこもかしこも乾燥したうんこだ。というか、ここら一体の地面全部がうんこだ。そうわかると、悪臭が心なしか漂い始め気分が悪くなる。
突然、湿った吐息のようなものが全身にかかる。くっさ!
せきこみながら、目の前をライターで照らした。
口からボタボタと涎をたらしながら、白い歯を見せている、銀色の鱗を纏った何か。
青い双眸を二つともこちらに向けて、鼻をヒクヒクと動かしながらライターに近づけてくる。
「うわあああああ!」
鼻にライターの火を押し付け、思い切り蹴り上げてから後ずさる。
野太い叫び声が、地面を揺らすほど大きく響く。
バチャ、バチャという泥が落ちるような音と共に、辺り一体が一気に明るくなる。
「ギャォォオオオオオン!」
銀色の鱗を纏った、西洋の竜の姿をした化け物。
背中から巨大な翼を生やし、体長は優に一キロを超えていそうなほど大きい。
上空に向かって叫びながら、口の端から溶岩を垂れ流している。
山の頂上にあった溶岩は、この竜の口から出ていたようだ。それにしても暖かい。
叫び終わり、こちらを睨む銀色の竜。
右の前足で残像が残るほどの速さで地面を叩きつける。
あまりの振動に、体が数メートルほど浮かび上がる。
左の前足が迫ってくるのを、身を捻りながらかわす。前足を両手で掴んで足をつけ、頭まで一気に駆け上がる。
右で拳を作り、広げた左手でそれを覆う。ダブルスレッジハンマーという、技を竜の脳天に叩き込む。
しかし、こちらの両手の骨が嫌な音をあげる。内出血を起こして紫になった手を労わりながら、竜の頭から地面に降りる。
こちらの手は骨が軋むほど強く叩き込んだのに、あの竜は蚊に刺されたほどのダメージも感じていないらしい。あざ笑うように、口から溶岩を垂れ流す。
「これ、逃げるのが稽古だったりしないよな……?」
勝てるイメージが全く湧かないまま、竜に向かって構えた。
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