ep.52「ネージュベルク星」
ネージュベルク星。
見渡す限り一面の銀世界が広がり、そこらかしこに凍りついた木が寂しく立っている。
遠くにそびえ立つ山の頂上からは、太陽と見紛うほどの眩しさを放つ特殊な溶岩があふれ出ている。アレのおかげで、この星の温度と明かりはギリギリ人間が活動できる状態で保たれているらしい。
肺を満タンにするほど大きく息を吸い、この銀世界の空気を堪能する。肺の中が冷たい空気で満たされ、吐いた息が目の前を白くなって漂う。
「いや~……綺麗だヒン~」
プフェーアトさんがそう言った。
本当に、綺麗だ。
後ろにぽっかりと空いたこの穴さえなければ。
振り返り、後ろの穴を再度見てから溜息を吐く。
直径十キロはありそうな大穴。穴の中は真っ暗で何も見えず、下に何があるのかもわからない。何があるかを知っているのは、第三チームをここに連れてきた班長だけだろう。
「よし、みんな。まぁ大体察しはつくと思うけど、その穴の中が稽古の場所だ」
班長が宇宙船から出てきて、穴を指差しながら言った。
あの溶岩の光が届く場所でも、防寒着をこれでもかと思うぐらい着こんでガタガタと震える寒さなのだ。穴の光が届かない世界となると……想像したくもない。
これなら太平洋を何回も往復したほうがよっぽどマシだ。文句をつけて何とか止めさせようと試みる。
「班長、オーロさんはワープできるんですよね? この稽古、オーロさん一人だけ逃げてしまうのでは……」
「そこについては心配ない。今、オーロの酒と財産は全て僕が握っている。途中で逃げたりしたら全て燃やす、と脅してある」
なんて用意周到なんだ。恐ろしいほどの用意の良さだが、まだ一つ文句がある。
班長にしつこいと思われるかもしれないが、本当に嫌なんだ。
「アユーダ・トロンに剣を溶かされてしまって、今武器が無いんですが……」
「永宮君、肉弾戦って知ってるかい?」
素手で戦えということらしい。理不尽だ。
「もう質問は受け付けないよ。早くやれば早く終わるさ。じゃ、行ってらっしゃい!」
班長が五つの剣を宙に浮かばせる。
剣の一つがこちらに向かってきて、柄頭で背中を押して急かしてくる。
目の前で十字架を切り、覚悟を決めて飛びこんだ。
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