ep.51「入院」
目が覚めると、そこは見覚えのある白い天井だった。
周りはカーテンで遮られて部屋の中は全くわからないが、腕につながれているチューブや心電図を見て一つだけ言える。
ここは病院だ。
「永宮、おはようヒン」
右側のカーテンが音を立てながら開く。
そこには、病院服姿の馬のマスクをつけた上から包帯をしているプフェーアトさんがベットで寝転がっていた。
「プフェーアトさん、おはようございます。というか、病院で寝ているってことは……」
「そのとおり、親善合戦は終わったヒン。班長が防衛隊をボコボコにして旗に触ったヒン」
プフェーアトさんがバナナを渡してくる。
右手の調子を確認しながら、皮を剥いてかじる。右手はもう大丈夫そうだ。体の何処にも痛みは感じない。
プフェーアトさんはたい焼きを袋からあさり、マスクの中に入れて食べている。
「少年、酒はいるか~い?」
左側のカーテンが音を立てながら開く。
ベッドの上で頭に包帯を巻き病院服姿で座りながら、酒瓶を持っているオーロさんがいた。
ちょっと待て。
ベッドから起き上がり、周りを覆っているカーテンを全て開ける。
部屋の向こう側にある二つのベッドには、英史と水樹さんが寝転がっていた。
「班長以外全員入院してるじゃないですか!」
大声をあげて言った。
英史はその大声に眉をしかめ、読んでいた分厚い本を閉じた。
「あの合戦のせいで全員怪我を負ったんだ。入院するのは当たり前さ」
英史がそう言いながらこっちを見た。
いつも肩からさげている鞄の中からりんごを取り出し、皮ごと食べた。あの鞄どうなってるんだろうか。
突然、部屋の扉が開く。
そこには、お見舞いの果物を持った班長が立っていた。
「みんな、親善合戦お疲れ様」
班長は、相変わらずと言うか、擦り傷ひとつついていない。
強くなるたびに、班長との強さの差が理解できる。
「今年は死人が出ずに親善合戦が終わったけど……」
班長が部屋の中を見回したあと、深く息を吸ってから言った。
「正直、今回第三チームは僕が動いただけで、あまり活躍していない。アユーダ・トロンを抑えたのは凄いけどね」
俺と英史を見ながら班長がそう言った。
抑えた、という言い方をするということは、アレで倒しきれてなかったのだろう。内面も戦闘力も末恐ろしい女である。
「ということで、第三チームは明日全員が退院したら、僕が稽古をつけよう」
その言葉に、水樹さんとオーロさんとプフェーアトさんが目に見えて動揺し始めた。
水樹さんは顔を遠目からでもわかるほど青く染め、オーロさんは手に持っていた酒瓶を地面に落とした。
プフェーアトさんに至っては何がどうなったのか、たい焼きがマスクの目を突き破って飛び出した。
「ね、ねぇ、班長が稽古をつけるなんて……病み上がりだからちょっとは優しくしてくれるわよね?」
水樹さんが体を震わせながらそう言った。
班長はその言葉を聞き、ゆっくりと首を横に振った。
「いいや、手加減はしない。それに、全員今すぐに退院できるほど怪我は治ってるんだ。今日は早く寝て明日に備えるように!」
班長は持ってきた果物をプフェーアトさんの横の机に置いてから、部屋を出て行った。
水樹さんたちがあんなに怯えるほどの稽古……。オーロさんが以前あっさりと言ってのけた、太平洋横断よりも相当厳しいんだろう。
稽古の内容が全く想像できないまま、ベッドの布団の中に潜った。
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