表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/146

ep.50「正拳突き」

 あまりの痛みに大量に出てくる唾を何度も飲み込みながら、アユーダを睨む。

 目が限界まで乾燥しても瞬きはしない。いつさっきのような攻撃をしてくるかわからないからだ。


「ねぇ総帥……私をもっと強く抱きしめて……もっと強く激しく優しく!」


 アユーダが身を震わせながら叫ぶ。

 瞳孔が全開に開いた目でこっちを見ながら、城全体が揺れるほど強く地面を蹴った。

 そこらかしこに出来ていた紫の液体の水溜りが激しく波打ちだす。

 水溜りの揺れは城の揺れが止まったあとも勢いが弱まる気配はなく、逆に噴水のように上空に噴き上がった。


「英史、下がっててくれ!」


 英史をすぐ後ろに寄せたあと、覆いかぶさるように守る。

 噴水の液体は背中に容赦なく降り注ぎ、一滴当たるごとに神経がねじ切れそうな痛みが走る。

 目の前が白く点滅しはじめ、頭がボーッとしはじめた。


「大丈夫か、おい!」


 英史の呼びかけで意識を何とか戻し、お礼を言った。

 

「このまま受け続けるだけじゃこっちが先に……なんとかしないと」


 肩で呼吸しながら、アユーダを睨む。

 今は何もする様子が無いが、またすぐに攻撃をしかけてくるだろう。


 そのとき、一つのアイディアが頭に浮かぶ。

 だが、正直言ってやりたくない。まだ方法はあるだろうし、黙っておこ――


「なあ、その右腕で殴ればいいんじゃないか? どうせもう毒に侵されているんだろう?」


 英史が頭の中で思いついたアイディアをそのまま提案してきやがった。

 なんでこう嫌なことは気が合うのか、本当に理解しがたい。


「あー……わかった。少し持ちこたえてくれ、覚悟するから」


 深呼吸し、瞼を閉じながら右腕に意識を集中させる。

 拳を作るだけでも激痛が走る。目を開けて、右手を睨むように眺めながらゆっくりと閉じる。


 手の皮膚が擦れあうたびに濃い紫色の液体が手から噴き出す。

 何とか握りこぶしを作ったが、これで殴るとなると……想像したくない。


「英史、準備できたぞ……」


 自分でも驚くほど、心底嫌そうな声が出る。

 英史はアユーダの攻撃を避け続けていたようだ。右手に持った鉈を投げつけてからこっちに走ってくる。


「うん……痛そうだな」

「そうだね痛いよすごく」


 どんな会話してるんだ。

 英史が鉈ではなく、俺が渡した剣を鞘から抜く。


 走っただけでも痛むが、この際もう気にしている場合ではない。

 英史が一歩前に出て、アユーダを切り刻む。が、剣が溶けてしまって斬れている様子はない。


 それでも、一瞬アユーダが怯んだ。

 英史が真上に飛び上がった瞬間、アユーダの顔面に拳を叩き込む。

 

 紫の液体が飛び散り、全身が紫色に腫れ上がりだす。

 痛みはアドレナリンで中和されたのか、先ほどよりも弱く感じる。

 右手をすぐに引っ込めて、足を肩幅ほどに開き、腰を落とす。


 ロジーの正拳突きを真似て、右の拳をアユーダの腹に叩き込んだ。

 紫の液体を地面にボタボタと落としながらアユーダが吹っ飛ぶ。


 壁に叩きつけられ、地面に倒れこんだアユーダを眺め終わった瞬間、視界が突然暗転する。

 体が指一本動かせなくなり、眠るように意識を手放してしまった。

正拳突きとは、腰の捻りを使いながら突くものです。当然、腰を落として手を前に突き出すだけではただのヘナチョコパンチです。本文では表現をかなり省きましたが、正拳突きを本当にしたい方はこれを参考にしないでください。

改善点などあればご指摘いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ