表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/146

ep.49「紫色の猛毒」

「殺さないようにすませたいが……」

「殺してしまう心配よりも、殺される心配だろう?」


 英史がアユーダに向かって走る。

 左手の鉈を投げ、スライディングしながら右手の鉈で足を斬る。

 が、どちらの鉈もアユーダの体に触れた瞬間ドロドロと溶けてしまった。


「体に触れた瞬間溶けるか……おっと!」


 アユーダが紫の液体を全身から広範囲に撒き散らし始める。

 こちらも左手の剣を体の後ろに回し、空中に飛んで避ける。

 英史のほうも、新しい鉈を出して液体を弾きながら避けているようだ。


「総帥……総帥……」


 うわ言のように総帥と言うアユーダ。

 左足で地面に着地し、右の靴の底で思い切り顔面を蹴る。

 しかし、これもダメージを与えるどころか、逆にこっちの靴底が溶けてしまった。


「うわわわ! 靴が溶けちまう!」

「アホかお前。僕の鉈も溶けるのに、そんな靴が溶けないわけないだろう」


 英史からツッコミを受けながら、右の靴を脱ぎ捨てる。

 アユーダがゆっくりとこちらを睨みながら近づいてきた。

 体から出る液体の量はさらに増し、足元に水溜りを作っている。


「逃げるっていう手は……」

「ないな。あの頭はあの子かもしれないし、そもそも逃げ切れん」


 頭が真っ先に理由に来るのは、こいつらしいかもしれない。

 アユーダがゆっくりと歩いてくるのを警戒しながら見ていた。が、ふと姿が消えた。



 それは奇跡にも近い避け方だった。

 耳のすぐ横で、グジュグジュという音が聞こえたのだ。

 脳が判断するより先に、体が反応する。

 咄嗟にしゃがみ、英史に足払いをかけて転ばせた。


 ズバァン! という空気を切った轟音と共に、紫の液体に包まれたアユーダの足が頭上を通る。

 重量にしたがって落ちてくる液体を、右の腕で受けてしまった。

 腕に熱湯をかけられたような熱さを感じ、激痛が走り始める。


 英史が肩を持って引きずってくれたおかげで、アユーダから少し離れることができた。


「右腕が……くそ、どうなってんだこれ!」


 服の上から染みた紫の液体は、腕に激痛を常に走らせ続ける。

 目に涙を浮かべながら、左手で右腕の服を引きちぎる。


 元の太さから二倍は腫れ上がった、真紫の腕。

 空気に触れるだけで、意識をいつでも手放せるような痛みが走る。

 深呼吸をして無理やり意識を繋ぎとめながら、英史に話しかける。


「人体に触れるとこうなるらしい……」

「随分と痛そうだな、大丈夫か?」


 大丈夫なわけないだろ! と怒りを感じたが、それは余りにもお門違いすぎる怒りだ。

 感情をぐっと押し込め、歯を食いしばって涙を流しながら言った。


「この腕と痛みじゃまともに戦うなんて無理だ……。英史、あの女の液体は全て受け止める。なんとかしてあいつを倒してくれ」


 左手に持った剣を、鞘ごと英史に渡す。

 もうこれ以外にあの女、アユーダ・トロンを倒す可能性はない。

 息を荒くしながら総帥への愛をうわ言のように語るアユーダが、再びこちらに近づいてきた。



改善点などあればご指摘いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ