ep.39「三人で」
「すごいねぇ! 前よりとっても強くなってるよ!」
ロジーが手を叩きながら言った。
ふざけるな、と本気で言いたい。こっちはもう息が絶え絶えなのに、向こうはまだ息一つ切らしていない。それに、壁にヒビを入れる勢いで当てたのに、全くダメージが入っている様子がない。
先ほどのかかと落としで皮膚が切れたのか、額に血が垂れる。
「その様子だと、君の臓物が見れるのはもうすぐだ――おっと!」
ロジーが右腕をいきなり上げる。そして、後ろに振り返った。
「いきなりは酷いんじゃないかなぁ?」
「それでも避けてるでしょうが……!」
水樹さんが多少傷ついた姿で、右手で何かを受け止める。きっと、以前見せた光を透過させて見えなくする方法だろう。黒い円盤がスゥーと浮かび上がった。
「クラエ!」
「おっと。へえ、もう全員倒したのかぁ」
ロジーが、ところどころ削れた岩を纏っているフールの拳を受け止める。そして、辺りを見回した。
先ほど大量に現れたフールの同族が、もう全員倒れている。
「うーん……。まぁ、君達三人ぐらいならいいか!」
フールの体を持ち上げ、先ほどヒビの入った壁のほうへ投げつける。
壁のヒビが、フールが当たったことによって更に大きくなる。
「永宮クン、私達は援護に回るわ!」
その言葉を聞きながら、剣を杖にして立ち上がる。いくら強かろうが、諦めるわけにはいかない。
ロジーは強敵で、しかもかなりのタフだ。プフェーアトさんの攻撃を首にまともに喰らっても動けるくらいに。
そんなゴリラみたいな奴を倒すには……
ヒビが大きくなった壁の方を見る。あの壁の向こうは確か、雨が降る外だったはずだ。
鞘から剣を抜き、ロジーの方に再度構える。
あいつを倒すには、どうにかしてあの壁の向こうへ追い出すしかない。
「ロジー!」
「おぉ。じゃ、再開しよっか!」
右手で剣を持ちながら、ロジーに向かって走り出す。
繰り出してくる拳を、全て剣で弾き返す。一発弾くごとに、手が痺れて剣を落としそうなほどの衝撃が走る。
フールがロジーを後ろから殴りつけようとするのに合わせて、ロジーに袈裟斬りをしかける。
ロジーは二人分の攻撃を右手と左手で受け止めた。
剣を離し、ロジーのみぞおちにパンチを入れる。顎にもついでにアッパーカットを決めて、剣を奪い取ってロジーの体から離れる。
「いったぁ……人の顎を殴るなんて酷いなぁ」
どの口が言うか。お前は人の顎を殴るどころか骨を粉砕しただろ。
フールもロジーから離れる。
……そういえば、フールの岩って何か鉄っぽいよな。磁力で引き寄せれば反応するんじゃないか?
剣を鞘に納め、フールに切っ先を向けて磁力を発生させる。
思ったとおり、フールの体が剣にくっつく。というか、フールが見た目に関わらずかなり軽い。
「オワ! ナンダコレ!」
「ちょっと我慢しろよフール!」
両手で剣を持ちながらロジーに向かって走り出す。
「うわあぁ! 何それ、すっごく興味湧くよぉ!」
ロジーが目をキラキラと輝かせながら、拳を繰り出してくる。
全て剣の先に付いたフールで弾く。ハンマーみたいな感覚だ。とても不思議だが、手に衝撃が全く伝わってこない。
ロジーの両腕を上に跳ね上げさせ、無防備になったところにフールを叩き込む。かなりシュールな状況だが、威力は絶大だ。
ヒビが入った壁の方に再び吹っ飛ばす。ロジーが頭から血を流し始めた。
壁のほうももう耐えられなくなったのか、外と繋がる大穴が空いた。
「モ、モウカンベンシテクレ!」
フールが痛そうな声をあげた。よく見ると、身にまとっている岩がかなり砕けている。
磁力を切り、剣の先からフールを降ろす。
「まさかこの星の住民に武器の使い道があったなんてねぇ。骨が何本か折れちゃったよぉ」
胸の辺りを押さえながら、こちらに近づいてくるロジー。
このまま押し込めば、すぐに外だ。しかし、こっちの狙いは向こうももう気づいているだろう。ここが最後の正念場だ。
「おおおおおおおお!」
雄たけびを上げながら突っ込む。
ロジーはその場で足を大きく開き、体の重心を下げた。
ロジーの打撃が、雨のように迫ってくる。両手で絞るように持った剣で弾く。
さすがに焦っているのか、拳の一つ一つがさっきよりも重い。
手が耐え切れなくなったと同時に、剣のほうも耐え切れなくなり、音を立てて砕け散った。
「あはぁ! 残念だけどもうお終――い!?」
突然、ロジーの右足が血しぶきを上げながら宙に舞う。
宙に待ったロジーの足の横に、水樹さんの黒い円盤が姿を現した。
「ありがとうございます、水樹さん!」
地面に落ちた剣の破片を手で掴む。手から血が流れ出るが、全く痛みを感じない。
足を斬られ戸惑っているロジーの体を何度も斬りつける。だが、さすがと言うべきか、すぐに落ち着きを取り戻し破片を握っている手を掴まれる。
ここで止められたらもう勝つチャンスはない。
右腕を掴まれたまま、血まみれのロジーの体に突進する。
ロジーと共に、雨が降る外に身を投げ出した。
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