ep.2「宇宙船」
備え付けの椅子に座りながら、窓の外を見る。
外の景色は先ほどから黒一色の世界が続いているばかりで、新鮮さが全くない。
中の景色に視線を戻す。
真っ白な床と壁に、机や椅子、ベッドなどの家具が置かれている部屋。
右側の奥の方にはキッチンがあり、その反対側の方には操縦席がある。
アクアード星に向かう宇宙船の中は、意外にも居心地がよかった。
「飲みすぎたわ……」
ベッドで寝転がっている水樹さんが、頭を手で押さえながら呟いた。
たしかに、昨日は酷い飲み方をしていた。あれは飲むというか、浴びると言ったほうが正しいだろう。俺は多少セーブしながら飲んだので、二日酔いは起こしていない。
「さすがに騒ぎすぎたな……。というかお前は酒癖が酷いぞ」
片手で頭を押さえながら、水樹さんを指差す班長。
水樹さんが大きく唸りながら、ベッドの上で体を起こす。
「そうそう、さすがにマイクロビキニはやりすぎだヒン。はい、水」
真っ黒なお盆に乗せたコップを二人に渡すプフェーアトさん。
班長はチビチビと飲んでいるが、水樹さんはコップの中の水をラッパでも吹くかのように、勢いよくガブガブと飲み干した。
袖で口元を拭いながら、班長に向けて話す。
「うるさいわね……。似合ってればいいのよ」
「どうみても似合ってなかったヒン」
椅子に座ったプフェーアトさんが、たい焼きを一つマスクの中に入れる。恐らくマスクの中で食べているんだろう。
外して食べればいいのに……。何かこだわりがあるんだろうか。
「そんなことないわよ! ね、永宮クン?」
昨日の水樹さんの姿を、頭の底から引っ張り出す。
……うん。
「その……はい。とても……セク、可愛らしい……?」
若干、いやかなり言葉に詰まる。
水樹さんのあの姿は、小学生が無理やりマイクロビキニを着たような姿だったのだ。
似合う、似合わない以前の問題である。あんなもの可愛いとか似合うとか言ったらただの変態だ。
「ほら、言葉に詰まってるじゃないか」
「やっぱり似合ってなかったヒン」
水樹さんが顔を真っ赤に染め上げながら、ベッドから立ち上がる。
大きな歩幅でズカズカと歩き、プフェーアトさんがコップを運ぶときに使っていた黒いお盆を乱暴に掴んだ。
「ちょっとオーロ! まだアクアード星に着かないの?」
お盆を持った手を大きく振りながら、運転席に向かって大声で叫ぶ。
すると、運転席から煙草を指に挟んだ手が伸びてきた。
「勘弁してほしいんだね、嬢チャン~。二日酔いが悪化しないようにゆっくり進んでるんだね~。あと少しだから、もうちょっと待って欲しいんだね~」
水樹さんが恥ずかしさを紛らわせるように地団太を踏んで暴れだす。
「水樹、ちょっと落ち着け。永宮君、オーロの手伝いをしに行ってくれないか?」
「わかりました」
班長が水樹さんを抑えながら言った。
指示通りに、操縦席のほうに向かう。
「何かようか~い? 少年」
操縦席に座っているオーロさん。
煙草を口に咥えながら、灰色の帽子を深めに被っている。
全身に纏っている服、全てが灰色だ。
「班長から、オーロさんの手伝いをしてくれ、と…」
「そいつはありがたいね~。しかし、手伝ってもらうことはないんだね~」
凄く語尾を延ばしている。癖だろうか。
「せっかくだし、しっかりとしていない自己紹介でもしようかね~」
煙草を灰皿に押し付ける。
「俺の名前はオーロ・カレンシー。ギャンブルと煙草と酒が大好きな、典型的なダメな大人さ~」
そう言うと、箱から煙草を出そうとする。
「あっ、と…。まぁ、もう見えたしいいか~。少年、あれがアクアード星だね~」
窓の外を指差すオーロさん。
星全体が明るい緑色の、美しい星があった。
「あれが、アクアード星ですか?」
「そうだね~。資源が豊富なんだけど、水が全くないっていう不思議な星だね~」
オーロさんが横に置いてあった水筒の水を飲む。
「少年も今のうちに水分をしっかり取っておいたほうがいいよ~。一旦宇宙船に帰って補給なんてしないからね~」
「わかりました。班長達にも、もうすぐ到着だと伝えておきます」