ep.37「遭遇」
「ここダ」
フールが岩陰に身を隠し、声を潜めながら言った。
暗闇がずっと続いていた洞窟の中に白く光る扉がポツンとある。
「俺の仲間もこの中にいるはずダ。強いゾ!」
自慢するように言ったフール。
洗脳されていて戦うことになるかもしれないのに、強いことは何も嬉しくない。
「さっきも言ったとおり、ちょっとおかしそうなのは全員味方だ。鉈を持った奴は殴れ」
「わかっタ」
扉をゆっくりと開き、中の様子を確認してから入る。
灰色の地面に色とりどりの線が引かれ、数字で区ごとにわけられている。
宇宙船らしきものもいくつか置かれている。
中には、片方のブースターが取れているへこんだシャトルもあった。
「…ロジーのシャトルだ」
顎をさすりながら、テネーブル星でのことを思い出す。
散々顎を蹴られて殴られて、骨が粉微塵になったのだ。
おかげで数日間飯もまともに食べることができなかった。
「フール、お前も顎だけは注意しといたほうがいいぞ」
「? なんでダ?」
剣を抜きながら、格納庫の奥にある扉を開ける。
中央にある大きな砲台のようなものを、丸く取り囲むようになっている通路。
通路は金網でできていて、そこから地面が見える。
落ちたら生きる可能性など確実に無い高さだ。数字に表すと五十メートルぐらいだろうか。
ちょうど砲台の向こう側から、カチャカチャと機械を弄るような音がする。
剣を横向きにして投げ、鞘の磁力で軌道を修正する。
「きゃっ!」
悲鳴と共に剣が弾かれる音がする。
カランカランと音を立てて、金網の下へ剣が落ちていく。
「ちょっとぉ、危ないわね!」
…この喋り方と声は。
「もしかして水樹さんですか?」
「…その声は」
金網の通路を歩くと、水樹さんが立っていた。
「その岩人間みたいなのは誰?」
「ああ、この星の住民らしいです」
「フールだ!」
笑いながら名前を言ったフール。
苦笑いしながら頭をかいた水樹さん。
「班長達は…?」
「私も見てないのよ。君も知らないの?」
「山の向こうに宇宙船が落ちていったのは知っていますけど、正確な位置は…」
「へえ。山の向こう、ね」
落ちていった剣を鞘に戻す。
水樹さんは機械は再び機械を弄り始めたが、突如手を止めて歩き出した。
「こっちよ」
ガチャ、と音を立てながら扉を開ける水樹さん。
静かに動くという意識がないのだろうか、あの人らしいが。
以前ロジーと戦ったような広くて白い部屋に出る。
ちょうど向かい側にも扉が一つついている。
「ったく、オーロとあのクソ馬はどこに行ったのかしら」
バタン! と大きな音を立てて向かい側の扉が開く。
水色の髪に低い身長、黒いお盆を持った水樹さんだ。
「え?!」
二人目の水樹さん!?
先ほどまで横にいた一人目の水樹さんの方を見る。
「はぁい。可愛い乙女だよぉ」
黒髪に眼鏡、気の抜けた話し方をする女性。
忘れようにも忘れられないヒュイド族の一人。
「なっ、ロジー!」