ep.31「遊郭」
「ここが闇市ですか…」
「正確には闇市の遊郭エリアだけどね~」
橙色に光るちょうちんが、天井からいくつも連なるようにぶら下がっている。
そのちょうちんから漏れ出る淡い橙色の光が、建物の壁を照らして幻想的な雰囲気を出す。
地面は赤く塗られ、気分は高級なホテルの中でも歩いているかのようだ。
綺麗な女性が扇情的な格好をしてたくさん歩いている。
「へ~。奴隷も売ってるんですね」
「遊郭エリアってのはいわば女を売買する場所だからね~。女を狙う殺人鬼なら、絶対ここに姿を現すだろうね~」
鉄の柵で仕切られた中に、手錠をされている奴隷を見る。
首からかけられた値札には、目玉が飛び出るような額が載っていた。
金持ちだけが買えるものということだろうか。
「…ん? 何か変な触手も売ってるんですね」
「ああ、別の星から捕まえてきた奴だね~。ああいうのは一部のマニアに受けるから、捕まえて売っ払うと金になるんだね~」
水色のうねうねと動く触手。値札を見る。
高いといえば高いが、先ほどの奴隷よりはまだ手が届きそうな額だ。
もちろんそんな趣味はないので買う気は無いが。
「オラオラ! メノン様が通るんだ、とっとと道をあけやがれ!」
黒いスーツにサングラス、スキンヘッドのいかつい男に道の端まで押し込まれる。
道の奥のほうに、数十人にも及ぶ女性と、その中央で酔っ払っている男の集団が見える。
「偉い人が通るときはこういう感じになるんですね……ん? オーロさん、どうしたんですか?」
オーロさんが呆れたように頭を抑えている。
集団の中にいる酔っ払った男は、酒瓶を持った手を上にあげた。
「おっ。オーロぉ、楽しんでるか? 俺の作った武器の調子はどう――ブゲッ!」
「おかげさまで絶好調だね~。それよりメノン、ポルトロンが探してたんだね~。あのアホどこ行きやがったって」
酔っ払った男、メノンさんの鼻っ柱を殴るオーロさん。
殴られたメノンさんは鼻を抑えながら笑った。
「ポルトロン? ああ~…俺は行けないって伝えて――ブホッ!」
「口答えせずにとっとと行くんだね~。少年、俺はこのアホを第一チームまで連れて行くから、少しだけ一人で頼むんだね~」
オーロさんは、酔っ払ったメノンさんの服のうなじ辺りを掴む。
そのままメノンさんを引きずっていってしまった。
「オーロぉ、ちょっと飛んで連れてってくれればいいじゃねえか」
「その酔いを醒ますためにわざわざ徒歩で行ってるんだね~」
二人の会話が少しだけ聞こえてくる。
オーロさんが殴った瞬間、静まり返った遊郭も元の騒がしさを取り戻し始めた。
ふと、遊郭内に似つかわしくない学生服姿の男を見つける。
肩からかけた大きめのカバン。そして何より、そのごく普通な顔。
手配書に載っていた男とそっくりだ。
さっきまでのひと悶着を見ていたようだ。
振り返ってから、奥のほうへ歩いていく。
こういうときに限って一人だが…。今回を見逃したら一体いつ見つかるかわからないので、追わないわけにもいかない。
遊郭内の喧騒に身を隠しながら、学生服の男を追い始めた。
改善点などあればご指摘いただけると嬉しいです。