ep.29「バイク」
「調査ご苦労だった。さっそくだが、テネーブル星でのことを報告してもらおうか」
ゼバル隊長が椅子を軋ませながら言った。
第三チームは全員隊長の部屋に集まっている。
「結論から申しますと、テネーブル星にはヒュイド族が一名。巨大な建物の中で奇妙なことをしていました。水樹、頼む」
班長が一歩下がり、水樹さんが一歩前に出た。
「私の専門じゃないから、とりあえず確定してることだけ言うわ。テネーブル星で行われていたのは高度な生物学の知識を利用した道具の製造よ。これがテネーブル星の住民に対して使われていたわ」
住民といえば、あの四足歩行する黒いもやのようなものだ。
水樹さんは黒いわっかを隊長に手渡した。
「脳みその中を弄くって……簡単に言えば、そのわっかをつけた相手を無理やり洗脳するのよ。脳の仕組みを完璧に理解していないととても作れないわね」
隊長が黒いわっかを手に取り見つめる。
机の上にわっかを置き、深い溜息をついた。
「高度な生物学か……。ドラケニクス王星の奴らが嚙んでるのか?」
「さぁ、どうかしら。私の専門じゃないから、そこはなんとも」
班長が再び深い溜息をついた。
水樹さんと隊長が話している奴らは、誰を指しているのだろうか。
「はぁ……。まぁあいつらのことは後回しだ。お前らのその感じだと、どうせその星にいたヒュイド族とやらは逃がしたんだろう?」
そういうと、ゼバル隊長は机の中から一枚の紙を取り出した。
上の方に大きく請求書と書かれている。
「ヒュイド族は第一チームに追ってもらう。
それより、だ。
つい先日、侵略隊の予算が大幅に減った。調べてみたら、お高めのバイクが買われてるじゃないか。一体誰が、勝手に予算を持ち出して、バイクなんか買ったんだろうな。なぁ、プフェーアト?」
プフェーアトさんは顔をずっと横に逸らしている。あのバイクはプフェーアトさんの物だったのか。
というかあのバイク、テネーブル星に置きっぱなしだ……。
「プフェーアト、悪いことはいわん。今すぐあのバイクを返品して金を返せ」
「そ、それが……テネーブル星に置いてきちゃったヒン」
「何?!」
ゼバル隊長が立ち上がる。
顔を真っ赤にしてプフェーアトさんに近づき、脳天を拳骨で殴る。
骨と骨のぶつかる痛々しい音がこちらまで聞こえてくる。プフェーアトさんは頭を押さえうずくまった。
「お前は昔から変なものばかり買いおって! ええい、もう一発殴らせろ!」
「ゆ、許してほしいヒ~ン!」
顔を真っ赤にして右手を振り回すゼバル隊長。それから逃げるプフェーアトさん。
その追いかけっこは数分ほど続き、最終的にプフェーアトさんが拳骨を三発くらったことで終わった。