ep.1「第三チーム」
「僕はキル・テュエマタール。第三チームの班長だよ。よろしくね」
机の上に載った暖かいお茶をすすりながら、落ち着いた声の調子で、金髪の男が言った。
茶菓子代わりなのか、たい焼きを右手にモグモグと食べている。
「私は水樹のりえ。このチームの武器を開発、整備してるわ」
水色の髪の少女が、たい焼きを口いっぱいにほお張りながら言った。しかし、小さい。小学校低学年、と言われても信じてしまいそうなほど小さい。
「シュヴァルツ・プフェーアトだヒン! 新入り、たい焼き食べるヒン?」
「あ、じゃあ一つだけ……」
馬のマスクを被った男が、たい焼きの袋をこちらに向けながら言った。
手を伸ばしてたい焼きを一つ取ろうとすると、隊長がプフェーアトさんから袋ごとたい焼きを奪い取った。
モグモグとたい焼きを食べ、小さな部屋の中を見回してから言った。
「おい、オーロの奴はどこだ?」
その言葉に、水樹さんが胸をトントンと叩きながらたい焼きを飲み込む。少しだけ息を吐いてから、隊長の持っている袋からたい焼きをガサゴソと取りながら言った。
「いつも通りギャンブルしにいったわよ。まだ帰ってこない、ってことは相当勝ってるわね。槍でも降りそうだわ」
その言葉に、隊長が呆れたように溜息を吐いた。
空っぽになった袋をグシャグシャと潰してから机の上に投げ、口の周りについた餡子を指で拭いながら言った。
「…まぁいい。オーロの奴が帰ってきたら伝えておいてくれ。第三チームに任務だ」
「えっ、任務ですか?」
机でお茶を飲んでいた金髪の班長が、驚くような声をあげる。
丸まった袋のゴミをゴミ箱に投げ入れるのを見ながら、隊長の言葉に耳を傾けた。
「既に侵略したアクアード星の奴らが、反旗を翻したらしい。それの鎮圧をして来いとのことだ」
それを聞くと、班長とプフェーアトさんが溜息を吐いた。
水樹さんは興味がなさそうに、部屋の入り口近くにおいてある冷蔵庫の中を見ている。
「それ、防衛班の仕事じゃないですか?」
「しかもアクアード星って何もない星だヒン……」
二人が一斉に文句を言い始める。
隊長がその文句をかき消すような大声で言った。
「防衛班も人手不足で悩まされてるんだろうな。それに、初めての子にはいい場所だろ?」
隊長の言葉に二人がやや不満げに返事をする。
ふと、冷蔵庫の中に頭を突っ込んでいた水樹さんが、腰に付けている剣を指差しながら言った。
「新入りの……永宮クンだっけ。君専用の武器も、また作るから。とりあえずアクアード星の間だけは、その支給品で我慢してくれるかしら?」
「あ、わかりました」
軽く会釈をすると、再び冷蔵庫の中に頭を戻した。一体何をしているんだろうか。
「アクアード星への出発は明日だ。気を抜かず、今からしっかり休むように」
隊長がそう言ったあと、部屋から出て行った。
静かな時間が数十秒ほど経った後、突然プフェーアトさんが扉に近づき始めた。
廊下の様子を少しだけ扉を開けて覗き、鍵をガチャリと閉める。
「永宮君。お酒は飲めるかい?」
ふと、肩を叩き班長が問いかけてくる。
「あ、はい。一応飲めます」
班長が二マッ、といかにも悪そうなことを考えている笑顔をした。
「よし! 秘蔵の酒を飲ませてあげるわ永宮クン!」
水樹さんが冷蔵庫の中から、茶色の大きい一本の瓶を取り出す。
いやどうやって入れていたんだアレ。どう考えてもあの冷蔵庫に入りきらない大きさだろうに。
「ビールも大量に残ってるヒン!」
プフェーアトさんが机の下に手を伸ばし、床の板をペリペリと剥がす。
そこには、山積みの様になった大量のビールが、キンキンに冷えた状態で入れられていた。
「今日は長宮君の入隊祝いだ! 第三チーム全員で宴会をするぞ!」
班長がビールを受け取り、真っ先に蓋を開ける。
シュワシュワと白い泡が飲み口から零れる。
「えっ、いや明日は任務では…?」
「節度を考えて飲めば大丈夫よ! オーロの奴も帰ってくるし、これぐらいの酒すぐ無くなるわ!」
「そういうことだヒヒン! 任務のことを気にして我慢してたら侵略隊で働けないヒヒン!」
プフェーアトさんから無理やり蓋の開いたビールを持たされる。
「よし、乾杯!」
班長がビールを一気に飲んだ。