ep.23「テネーブル星」
「ラーヴ星での見張りは暑かったけど、まあ必要だったと思いますよ」
「いきなりどうしたんだヒン?」
プフェーアトさんが驚いたようにこちらを向いた。
宇宙船によりかかりながらたい焼きをほお張っている。
「今回は全く意味ないじゃないですか! どこを見ても暗闇ばっかりですよ!」
周りを指差しながら立ち上がる。
テネーブル星は特殊な黒いガスで覆われている。ガスは絶対零度よりも更に下、今の技術でも観測不能なほどの温度らしい。
その温度もさることながら、光を全く通さない性質も持っている。
そのためどこもかしこも黒いガスだらけ。見張りもクソもない。
「永宮君。気持ちはわかるけど見張りも大事だよ。中に入って」
班長が宇宙船の中から顔を出す。
中では相変わらずオーロさんが隅の方で煙草を吸っている。
水樹さんは機械を弄っている。
「今回はかなり危険だから皆よく聞くように。じゃあ作戦を説明しようか」
班長が青い大きなシートを机に敷く。
テネーブル星のホログラフィックが浮かび上がった。
「予算が増えたおかげで、今まで手を出せなかったテネーブル星に調査をしに来ることができた。以前からこの星に謎の反応があったのが確認されている」
班長が星の一部分をズームする。
黒い霧に覆われている星でほぼ見えない。何のためのホログラフィックだろうか。
「うーん…。テネーブル星は情報がないから紙の地図もないんだ。とりあえず、この宇宙船から真っ直ぐ北に数十キロほどのところを調査するのが今回の作戦だ」
机に敷いたシートを回収する班長。
すると、機械を弄っていた水樹さんが大きな服を全員に配り始める。
「映画とかでも見るんじゃないかしら? 昔の宇宙服を改造した防護服よ。これを着ていないと一瞬で体が氷漬けになって死んじゃうからしっかりと着てね」
「昔の宇宙服なんて闇市で子どもの小遣いくらいの値段で売ってるヒン」
「コストカットよ。最新式を五人分揃えたらかかるお金がシャレにならないんだから」
本当に大丈夫なんだろうか。
不安を感じつつも防護服を身にまとい始める。
ヘルメットを頭に装着すると、視界の右下あたりにそれぞれの顔が映る。
「おお永宮! 聞こえてるヒン?」
「聞こえてますよ。会話機能もついてるなんて凄いですね」
「できれば煙草を吸える機能もつけて欲しかったね~」
プフェーアトさんが防護服姿で手を振っている。馬のマスクを被ったままヘルメットをつけているが、苦しくないのだろうか。
水樹さんと班長の顔が映る。
「全員装着してるわね。ヘルメットの右部分を軽く叩いてちょうだい」
人差し指で三回ほど軽く叩く。
全身のライトが点灯し、視界の右上あたりに五つの赤い丸が浮かぶ。
「右上の赤い丸は近くにいる仲間の居場所よ。全身のライトは極力壊さないでね。ガスを緩和させて視界を保つ役割をしているから、壊れれば壊れるほど視界がなくなっていくわ」
プフェーアトさんが全身についているライトに興奮して踊りだす。
宇宙船の棚に腕をぶつけてライトを一つ壊した。
「あっ! クソ馬、今壊すなっていったばっかりでしょ!」
「ご、ごめんヒン! 悪かったヒーン!」
水樹さんが怒声をあげる。
班長が水樹さんとプフェーアトさんの肩を叩いた。
「二人とも落ち着いて。…今回は全員で行動する。この星の住民もこちらが何かをしなければ何もしてこない。よし、作戦開始!」
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