ep.22「開発室」
「武器の調整ね。すぐ終わるから一緒に来てくれるかしら?」
水樹さんが扉を開ける。
開発室の中には真ん中のライトが点いている以外に明かりはない。
培養液や二対の扉、フヨフヨと浮かぶ鉄塊があった。
真ん中のライト辺りに一人の男性が何かを弄って立っている。
「フュジ…。あんたまた改造してるの?」
「ん?」
話しかけられた男性は弄っていた物を近くの棚に置いた。
そしてこちらに振り返った。
「おお、水樹ちゃんか。どうしたんだい?」
「どうしたも何もないわよ。第三の新人の武器を調整するから連れてきたのよ」
男性が顔をジロジロと見てくる。
こちらも見返す。
…でかい。身長はこれでも高いほうだと自負しているのだが、それでも目の前の男の胸辺りまでしかない。
小じわも少し多めだ。壮年あたりだろうか。
「ああ! リティが話してた子か。面白そうなのが入ってきたって。それに侵略隊の予算も増やしたんだって? ありがとうね」
頭を強めに撫でられる。元々荒れている髪の毛が更に荒れた。
久しぶりに頭を撫でられるがあまり悪い気はしない。
「ワシの名前はフチーレ・フュジ。リティと同じ第二チームだ。こんな体格でよく勘違いされるんだが、銃使いだ」
そういうと、先ほどまで弄っていた物を見せてくる。
「…これレーザー銃じゃないですね」
「そうなのよ永宮クン。こいつ、鋼鉄製の弾を飛ばす古い銃ばっか好んで使うのよ。とっととレーザー銃に変えたほうが良いって言ってるのに…」
「ワシはレーザー銃も使えんこともないんだがなぁ。この銃の匂いをかいだときにこいつらの虜になっちまったのさ」
水樹さんが部屋の電気を点ける。
フュジさんは白いタンクトップに黄土色のズボンを履いている。第二チームの開発担当のヴォランさんとよく似た作業服のズボンだ。
「ワシは用事が終わったから帰る。水樹チャン、また改造手伝ってくれよ~」
「今度こそレーザー銃に変えてやるわ」
フュジさんは部屋から出て行った。
水樹さんが近くの機械を使って何かをし始める。
「少しの間だけだから、適当に待っててくれるかしら?」
「わかりました」
近くの椅子に座り、デスクを見る。
引き出しを全て開けてみる。一番上の引き出しに、色あせた女性の写真が入ったペンダントがあった。
達筆な文字で"ジュリア"と書かれている。それ以外は、特に面白いものは見当たらない。
ペンダントを元に戻し、デスクの上にある本を適当に取る。
生物学のことが書かれているようだ。内容はほぼわからないが、読み進めていく。
生物の創造…死後の精神の行く末…超再生バクテリア…。
どうやらこれは誰かの研究内容を纏めたもののようだ。
本の裏表紙に名前が書いてある。ヴォラン・ヴェイキュル。第二チームの開発担当の人だ。
「ああ、それね。ヴォランの研究に興味があるの?」
水樹さんが後ろから話しかけてくる。
「何か物騒なことばかり書いてますけど…」
「ヴォランは生物学専門なのよ。私は機械工学専門。第一チームの開発担当のペラノ・メノンって奴は…何て言うんだろうアレ。まあいずれわかると思うわ」
水樹さんに調整を済ました剣を渡される。
「さらに磁力を強くして欲しいなんて言われるとはね。変に作動させちゃえば自分が怪我するわよ?」
「いえ、怪我するぐらい強くでいいんです」
「そう? まあ強くするぐらいなら簡単だからいいんだけど…」
ヴォランさんの本を元の場所に戻す。
水樹さんが部屋の電気を消す。
「そうだ。またプフェーアトを見に行かない? コーヒーぐらいなら奢るわよ」
「じゃあお言葉に甘えて。行きましょう」
開発室を出た。
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