ep.21「総帥」
班長がやけに髪型を気にしている。服もいつもより高そうだ。
それに部屋の中をそわそわと動き回っている。
「班長は何でそわそわしてるんですか?」
「んん? ああ…今日は総帥への報告があるのよ」
たい焼きを食べながら寝転がっている水樹さんが言った。
今日は夜なのに珍しくオーロさんが居るのはそういうことか。
「第三、全員いるか? ラーヴ星でのことを総帥が直接聞きたいそうだ」
ゼバル隊長が部屋の扉を開いた。
プフェーアトさんとオーロさんがだるそうに立ち上がる。
それと対照的に、班長が待ってましたと言わんばかりに反応した。
―――――
総帥の部屋は防衛隊側の施設の四階にある。
初めての防衛隊の施設だったが、無事に辿り着きホッとする。
「アユーダが何かしてくると思ったけど…何もなかったヒン」
「無駄口を叩くんじゃない。総帥の部屋の前だぞ」
ゼバル隊長がプフェーアトさんを注意する。
そして中指で軽く四回ノックした。
「入っていいぞ」
中から高い、透き通るような綺麗な声が聞こえてくる。
班長が姿勢を再度正して入室する。
その後に続き部屋に入っていく。
絶世の美女というのはこういう人を言うのだろう。
薄い緑色の髪を長く伸ばした麗しい女性が座っていた。
部屋の中も高そうな美術品が丁寧に飾られている。
「総帥、第三チームを案内しました」
「ご苦労だゼバル。下がっていいぞ」
ゼバル隊長が部屋から出て行く。
「テュエマタール班長。ラーヴ星でのことを報告してくれるかな」
「は、はい!」
班長の声がかなりうわずっている。
「ラーヴ星でヒュイド族一名と遭遇、班員一人が交戦致しました。しかし、その班員の命を優先し仕留めることができませんでした。恐らく、数年前に私が倒したヒュイド族族長の息子であり、親の敵である私を標的にしていたものと思われます」
「族長の息子…。つまり現族長か。班員が交戦したと言ったが、一体誰のことなんだ?」
班長がこちらを見る。
総帥も視線をこちらに向けて話した。
「なるほど、君はたしか例の新人…永宮クンだね。侵略隊の予算を一人で大幅に増やしたとかいう」
間違ってはいないけど嫌な覚え方をされている。
プフェーアトさんと水樹さんが吹き出す声が聞こえた。
オーロさんも少しだけ笑っている。
「はい。私が予算を増やした永宮です」
「ふふっ、そう卑屈になることはない。君のお蔭で侵略隊の経済事情はとても潤っているんだ。防衛隊の予算も増やして欲しいぐらいだ」
「お断りします」
「軽い冗談だ。君が現族長に殺されかけたそうだが、どうだったかね? 勝てそうか?」
総帥の言葉に拳を握り締める。
悔しさを心に押し込み話す。
「いえ…。しばらくの間修行をしていましたが、それでも勝てそうにはありません」
「話に割り込みますが、私でも勝つのは厳しいでしょう。現族長は、明らかに前族長よりも強い。一対一では相打ちが限界でしょう」
班長が言った言葉に総帥はうなる。
「なるほど…テュエマタール班長でも勝つのは厳しいか。再び対策を練るとしよう。これから侵略隊と防衛隊の班長、隊長を交えて会議を行う。テュエマタール班長、ゼバル隊長に伝えて全員ここに集めてくれ」
そう言うと、総帥は後ろを向いた。
もう退室しろということなのだろう。
総帥の後姿を眺めながらゆっくりと退室した。
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