ep.0「入隊」
「おめでとう。これで君は我々の仲間だ」
顔に少しだけしわが目立つ、壮年ほどの男が拍手をしながら言った。
朝になったと同時に、求人広告の一番下に書かれていた住所に来てみた。すると、目の前の男が門の前で待ち構えていて、あれよあれよと言う間に契約書に判子まで押させられていた。
質素ではあるが、貧乏な感じはしないこの不思議な部屋で、互いに名前を交わし合った。
「ありがとうございます。ゼバル隊長」
敬礼をしながらそう言うと、目の前の男が優しい笑顔で笑った。
右手を遠慮しがちに振りながら、椅子をギィギィと鳴らしながらこちらを見る。
「あー、そんなに固くならなくてもいい。仲間である以上、私達は家族同然と思ってくれ」
隊長が椅子から立ち上がり、机の隅に置かれていた「第三」と刻まれている鍵を手に取る。
人差し指にストラップの輪っかを引っ掛け、クルクルと回しながら部屋の扉を開ける。
「私が君のチームの部屋に案内しよう」
この建物は、不自然に綺麗なところや汚いところが点在している。
周りの壁と明らかに合わない白い色で塗り固められた壁や、血しぶきが飛び散った謎の地面。一体どんな仕事なのかは知らないが、気は引き締めておいたほうがいいだろう。
「そうそう、永宮君。私達の説明だが、部屋に着くまでに軽くしておこうか」
こちらの思考を読んだかのように、隊長が言った。
ゴツゴツとした指を二本立て、優しい声色で語り始める。
「私達は二つの隊に分けられている。私が管理する侵略隊、そして防衛隊。君が配属されるのは、侵略隊の第三チームだ」
二本の指を折り曲げ、苦虫を噛み潰したような顔をする。
軽く溜息を吐き、心底嫌そうな声色で話す。
「正直言って、防衛隊と侵略隊は仲が悪い。しばらくは防衛隊の建物には近づかんほうがいいだろう。自衛の手段も磨いていないしな」
隊長がそう言いながら、俺の腰につけている剣を指差した。
契約書に判子を押したとき、支給された剣だ。肉厚の刃に、包帯を何重にも巻きつけた柄。見た目よりも軽く、特に鍛えていない人でも普通に扱えるような重さになっている。
「永宮君、腕っ節の方に自信は?」
「え? いやまぁ、普通の人よりは……」
「なら大丈夫だ」
何が?
そんなことを思っていると、いつの間にか視界の中に、第一、第二、と書かれたプレートが張られている扉が入っていた。
隊長が第三、と書かれた扉の前で止まり、回転させていた鍵を親指で止める。
「それぞれのチームの部屋は扉に鍵が付いている。これが第三の鍵だ」
隊長が人差し指で回していた鍵を受け取る。
それを鍵穴に差し込もうとするが、肩を隊長に掴まれて止められる。
心配するような哀れむような、なんともいえない表情を浮かべながら、小さな声でヒソヒソと言った。
「……永宮君。隊長の私が言うのもなんだが、侵略隊も防衛隊もちょっと厄介な奴ばかりだ。精一杯サポートするから、頑張ってくれたまえ」
隊長が見守る中、鍵を差し込み、回す。
ドアノブを右手で捻り、扉をゆっくりと開けた。
「ブルッヒヒーン! 水樹、たい焼き食べるヒン?」
「プフェーアト! あんたいい加減たい焼き以外の物も買ってきなさい! 毎日毎日食べてるもんだから口の中が溶けそうなほど甘いのよ!」
「まぁまぁ水樹、落ち着いて……」
四畳半ほどのスペースに、
たい焼きが入っている袋を抱えながら小躍りしている馬のマスクを被った男、
馬のマスクを被った男を指差して怒声を上げている水色の髪の少女、
そしてその二人を宥めるように優しい声色で話している金髪の男がいた。
カオスだ。