ep.17「暗い病室の中で」
ピッ、ピッという心電図の規則的な音で目が覚める。
暗い病室の中、視線だけを動かして体の状態を確認する。
全身の骨が砕けているのはわかっていたが、筋肉もところどころ抉れて損傷していたようだ。特に右の太ももの根元が大きく抉れていて、肌色の詰め物が大量に盛られている。少し右足を動かしただけで強烈な異物感が脳に伝わり、胃液がせり上がって来る感触がした。
胃液を押し戻そうと右手を口に押さえた瞬間、何かが足りないことに気づいた。
ベッドの周りを覆っているカーテンを足で開け、右手を月明かりで照らす。
「~~! おええぇぇっ!」
ビチャビチャと音を鳴らしながら、病室の床の上に嘔吐する。
右手首の先がなかった。それだけなら、まだ何とか耐えれたかもしれない。
蠢いていたのだ。グネグネと肌色のイソギンチャクのようなものが、右手首の断面の先で。
吐瀉物をそのままに、布団を右腕全体を覆うようにかけてから強く縛る。
「ハァー……ハァー……」
肩で息をしながら、ベッドの上でうつぶせに寝転がる。
前の仕事がなくなって、なし崩し的にこの仕事に就職した。しかし、これは無理だ。多少腕っ節が人より強いとはいえ、このまま続けていれば絶対に命を落とす。
ルマルの圧力を思い出し、再び体がガタガタと震え始める。
ナースコールのボタンを押して吐瀉物を何とかしようと体を起こした瞬間、窓の外の景色が目に入った。
夜空で三日月が輝き、病室の中を淡く照らしている。その三日月を覆うように美しい星々が白く輝き、体を起こしたまま固まってしまった。
思わず息が漏れるような美しい景色をベッドの上から眺め、自分の右腕に視線を移す。右腕を覆っている布団をゆっくりと外し、右手首を再度月明かりで照らす。
もぞもぞと蠢く肌色のイソギンチャクはかなり気持ち悪いが、まあ……。
ここで辞めてしまったら、二度と空を見上げて星をないだろう。
宇宙に出る、ということも確実にない。地球から宇宙へ行く旅行船は料金が恐ろしいほど高く、一般市民なら人生で乗れる可能性はゼロに等しいほどだ。
「短い人生になることを考慮して輝くか、長い人生をぼんやりと生きるか、か……」
自分でも臭い台詞を言ってしまったことがわかり、少しだけ恥ずかしくなりながら左指でポリポリと頬をかく。
いつの間にか体の震えは消え、前向きな思考が頭の中を埋め尽くしていた。
侵略隊、もう少し居てみようかな……。それでも、死なないためにはもう少し強くならないと。
心の中でそう誓い、左手で拳を力強く作った。
「あ、ナースコール……」
看護師さんに右手を見られ、病室の中に甲高い悲鳴が響いた。
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