ep.16「圧倒的な恐怖」
「こんにちは、キル・テュエマタール。私はあなたが殺したヒュイド族族長の息子。ルマル・ジュスティスと申します」
「お前の名前に興味はない。殺す」
班長が斬りかかる。
ルマルという族長は、その剣を白刃取りで止めた。顔の数ミリ前で受け止めた剣をじーっと見て、余裕そうにニヤリと笑う。
「私を殺すですか。今ここで殺しあえばできるかもしれませんね。しかし、私達が殺しあっている時間の間にあの子は確実に死ぬでしょう」
ルマルが剣を弾き、こちらを指差した。
班長がこちらを見た後、目を閉じ、仕方なさそうに剣を収めた。
「…今すぐ僕の前から消え失せろ」
「わかりました。ルマル・ジュスティス。名前だけでもどうぞお覚えください」
そう言った瞬間、ルマルは消えた。
「プフェーアト!」
「無理だヒン。一瞬で糸の包囲網が突破されたヒン」
班長が叫んだ瞬間、プフェーアトさんが現れた。
糸の包囲網という名前から察するに、何か逃げられてもいい手立てを打っていたのだろう。
だがそれも突破されてしまった。
ルマル・ジュスティス。今の俺が逆立ちしても傷一つ付けられそうにない、圧倒的な相手だ。
ガタガタと震える体を押さえ、怯える心を必死に慰める。
「大丈夫だよ、少年~。族長相手に生きているだけでも大金星なんだね~」
オーロさんが優しく背中をさすってくれる。
その優しい動きにすらも恐怖を感じてしまうほど。
あのルマルの圧倒的な圧力に、心の底から屈してしまったのだった。
「俺、俺……」
そう呟いた瞬間、辺りを覆っていたルマルの圧倒的な圧力がかき消えた。この星から出たのだろうか、こちらに対する警戒を解いたのか、目に見えない不快感の塊がスッと消えたのだ。
その瞬間、強張っていた体が一気に軽くなり、視界と共に意識がぼんやりと薄れていく。
体が次第に傾いて行き、石製のゴツゴツとした地面に肩が触れた瞬間、ブツリと意識が途絶えた。
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