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ep.final「侵略星地球」

「そうか……。じゃあ、のりえは生きているんだな」


「ええ。どこでかは分かりませんが、確実に生きています。」


 カフェのカウンター席に座り、白い布でコップを拭いている主人、水樹さんのお父さんに言った。

 水樹さんとプフェーアトさんは死んだことになっているが、せめてこの人には真実を言っておかなければならないと思ったのだ。

 無料で差し出されたブラックコーヒーを一気飲みし、窓の外に視線を向ける。


「復旧作業、大変そうですね……大体はうちの責任なんですが」


 この街は特に被害が激しく、一週間経った今でも復旧作業が続いていた。

 二十四時間労働を一週間続けているのである。働いている作業員達の顔が幽霊のように青白くなっているのが見えた。

 今の時代、高層ビルが一日で建てることが出来るのだから、どれだけ被害が酷かったのかが推測できるだろう。


 窓の外に向けていた視線を店の中に戻す。


「そういえば、街の人たちは一体何処に逃げていたんですか?」


 人差し指でトントンと机を叩き、頬杖をつきながら問いかけた。

 拭き終わったコップを置き、新しいコップを再び拭き始めてから、主人が答えた。


「郊外のシェルターに、な。あんたのところの、ゼバルって人が誘導してくれたんだ。」


「……なるほど。隊長が……」


 ゼバル隊長は、倒壊したビルの瓦礫の中で見つかった。

 電源が点いたままの無線機を握り締め、満足げに瞼を閉じている状態で発見された。フュジさんが遺体を持ち上げ、班長達と同じ墓の中へ責任を持って埋めたという。

 彼らの墓は、俺と班長が戦った岬へ作られたそうだ。オーロさんもあそこで眠っているし、最適な場所だと言える。

 

 少しだけ重くなった空気を入れ替えるように、手に持ったコーヒーのカップをゆらゆらと揺らしながら話す。


「というより、よかったんですか?」


「何がだい?」


 病院で治してもらった左腕で店の奥を指差し、こちらまで声が聞こえてくるほど騒いでいる三人を指差す。


「フールの時もそうなんですが、クライン姉妹まで受け入れてくれるなんて……」


「お前ラ! やめ、やめロ! 痛イいたイ引っ張るナ!」


 クライン姉妹は洗脳が溶けた影響なのだろうか、相当のじゃじゃ馬っ子になっていた。

 主人が店の奥の三人を眺めて優しく微笑んだ後、こちらに向き直してから話した。


「大丈夫さ。二人とも働き者だし、この店の新しい看板娘になっているからね。それに、老人一人だけだと静か過ぎるだろう?」


 そう言った後、「ハハハハ」と気持ちよい笑い声をあげる主人。

 彼なら何かの間違いが起きる可能性もないだろう。とても信頼できる人だ。

 水樹さんがよく食べていたクリームパフェを一つ注文する。その時、チリンチリンとカフェの入り口に設置された鈴が鳴った。


「やっほぉ。元気かなぁ?」


「おお、ロジー! そっちこそ無事だったか?」


 自分が食べようと思って注文したクリームパフェを彼女に渡し、再度ブラックのコーヒーを注文する。

 小さな銀色のスプーンでパフェを食べ始めた彼女を横目に、主人からコーヒーを受け取る。

 頬をかすかに膨らませるほどの量を口に含んでから、一気に喉の奥へ飲み込む。何故かわからないが、これが一番美味しい気がするのだ。

 

「あ、そうそう。私、一つだけ欲しいものがあるんだぁ。いいかなぁ?」


「うん? 帰り用の宇宙船か? 今なら何頼んでもいいぞ、どうせ端数だからな。」


 ピース団とかいうクソ野朗共のせいで、街の修繕費は全て侵略隊が負担することになってしまったのだ。

 だから、今更一機三千万程度の宇宙船を新しく買おうが問題ない。どうせ修繕費は総額で優に五十兆を超えるのだから。


「遺伝子ってさぁ、強い物と強い物が混じり合った方がいいよねぇ」


「うん……? そりゃまぁ、そうだろうよ。」


 コーヒーの残りをちびちびと飲み、彼女の話を聞く。

 瞬間、()()()と口の中で、何か硬い物を嚙んでしまったような感触がした。

 

「主人、何かコーヒーに入ってぇ……?」


 コーヒーカップを見せようとした瞬間、動かした右腕から力が一気に抜けた。

 かなりの音を立てながらカウンターに右腕をぶつけ、全身からゆっくりと力が抜けていく。

 その瞬間を見計らったようにロジーが立ち上がり、俺の目に黒い布を被せた。


「何すんだロジー! これ外せ!」


 首根っこを思い切り掴まれ、椅子の上から無理やり引き摺り下ろされる。

 耳元に生暖かい息が吹きかけられ、小さな声でゆっくりと、ロジーが言った。


「君との子どもが欲しいなぁ……いいよねぇ? いつからか分かんないけど、君のことが好きになってたみたいなんだぁ。」


 ズルズルと尻を地面に擦りながら引きずられる。

 体を動かそうと目一杯の力を出すが、全く動かない。一体何をコーヒーに入れられたんだ。

 声帯に全神経を集中し、大声で叫ぶ。


「た、助けてくれぇぇぇええええ!」


 その決死の叫び声は、街の修復作業に使う重機の轟音にかき消されたのだった。




 地球の空はとても青く、どこまでも青い空が広がっている。

 その更に向こうには、人類が総力を上げても知り尽くすことが出来ない宇宙が広がっている。

 人類は地球の資源を取り付くし、他の星々の資源を奪い取るようになった。


 宇宙の星々を圧倒する強さを持つ地球は、いつしか宇宙中から畏怖されるようになった。

 星々の住人達は口を揃えて言う。あそこは悪魔の星だと。

 そんな地球は、いつしか星々にこう呼ばれるようになった。



 ()()()()()―――と。






                                おわり

「侵略星地球」これにて完結です。

ご読了ありがとうございました。


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