ep.130「サーカス」
「坊主、援護頼む!」
「わかりました!」
フュジさんが空を飛ぶピエロに銃を向け、閃光と共に鋭い炸裂音を三回鳴り響かせた。
地面の砂を少しだけ拾い上げ、空を舞うピエロに銃弾と共に飛びかかる。
「僕達サーカス団♪ ピエロは主役、みんなも主役♪」
肩と肘のしなりを利かせ、ピエロの脳天から剣を振り下ろした。
手に伝わったのは、金属をハンマーで殴り抜いたような感触。腕全体に自然と震えてしまうほどの痺れが走り、鋭い呼気を吐く。
転がりながら地面に着地し、痺れた右腕を鳴らしながらピエロを睨む。
「何だ、あの鳩?」
奴の体を覆うように、白い鳩が翼をはためかせながら飛び回っていたのだ。
フュジさんが小さく舌打ちし、再度銃を構え直す。
「ギネブア!」
「右上、二本目の支柱!」
ギネブアさんが天井を支える支柱を指差し、フュジさんが銃弾をそこに飛ばした。
空気を切り裂きながら進む銃弾が鉄製の支柱で跳弾し、ピエロの頭蓋目掛けて進んでいく。
「まだまだ遠い♪ まだまだまだまだ♪」
ピエロが指の間に鈍く光るナイフを出し、銃弾を受け止めた。
重力にしたがって落ちる銃弾を親指と人差し指で摘み、近くの鳩の口に無理やり突っ込んだ。
当然鳩が鉄の塊を食べれるはずもなく、苦しそうに鳴きながら吐き出そうとする。
「夢の世界♪」
銃弾を摘んだピエロの手が鳩を突き抜け、ピンクの筋肉と真紅の血液が空に舞う。
白く塗りたくられた顔の肌に血が着き、それを美味しそうに舌で舐めた。
「あはぁ。中々楽しそうだねぇ。」
「……ロジー、冗談言ってないで手伝ってくれ」
横に居るそいつの言葉に、少しだけ心の距離が遠のく。
リロードするフュジさんを横目で確認し、落ちてくる鳩の死体を避けながら駆けた。
「こんにちは♪」
「うぬおっ!?」
ピエロの白い顔面が突然目の前に現れ、一瞬だけ怯んでしまう。
振り下ろされたナイフを剣で弾き、左手で取っていた砂を顔面に叩き付けた。
「まだまだまだまだ♪」
目潰しをしたにも関わらず、容赦なく目を開いて斬りかかって来る。
黒い瞳孔を限界にまで開き、襲い掛かってくるピエロの腹を膝で蹴り上げる。
鼻っ柱に強烈な頭突きを決め、右腕を叩き斬るつもりで剣を振り下ろした。
「ピエロ、びっくり♪ 格闘強いんだね♪」
振り下ろした剣が空を斬り、地面に剣先が突き刺さる。
斬ろうとした右腕は、肘の辺りからぶらぶらと力なく、風に吹かれる紙切れのように揺れていた。
ぶら下がる腕が鞭の様にしなり、俺の頬を叩き抜いた。顔の向きごと視線が強制的に曲げられ、一瞬だけピエロの姿を見失ってしまう。
瞬間、首にひやりとした感触と共に鋭く光るナイフが迫る。
「おい! 坊主に何してやがる!」
背後からフュジさんの声が響き、ナイフが閃光を放ち、位置がズレた。
左の頬を貫き、歯茎の神経を切り開き、右の頬を貫いたところでナイフを歯で受け止めた。
ピエロがもう一本のナイフを取り出すよりも早く、腰に差した鞘を胸に当てる。
「人の歯茎を切り開きやがって、血がドバドバ出て痛いんだぞ!」
心臓の鼓動を早め、ピエロの顔面を右の拳で撃ち抜いた。
奴が付けた赤鼻から鼻血らしき赤黒い血液が飛び出し、放射線を描きながら地面に倒れた。
しかし、流石にそれだけで倒れるほど弱くはないらしい。すぐに体勢を立て直し、バックステップで後ろに飛び下がった。
「……痛い。それって辛い? 苦しい? それとも嬉しい?」
ピエロが左手からナイフを出し、俺と同じように自分の頬を突き刺した。
何度も何度も頬を貫いた状態で手を捻り、傷口がどんどん広がっていく。
「夢の世界♪ 何でも叶う♪ 僕が連れて行ってあげる♪」
にっこりと、瞳孔を限界にまで開いた恐ろしい笑顔でそう歌った。