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ep.127「流星送り」

「ロジー、恩返しってことは手伝ってくれるんだよな?」


「もちろんだよぉ。この前君から貰った鎮痛剤、残ってるけど使う?」


「ああ、使う。」


 投げてきた無針注射器を右手で受け止め、太ももに思い切り突き刺した。

 両腕に走っていた激痛が少しだけだが薄れ始め、とりあえずマトモに剣を振ることができるぐらいになった。

 指の関節を鳴らし、肩を大きく回しながらアユーダを睨む。

 赤らめた頬を自分の手のひらで撫で繰り回しながらこちらを眺め、嬉しそうな声色で言った。


「総帥、私をもっと褒めて……うふふ、あは……」


 頬を赤らめているアユーダに剣を構え、横目でロジーを見る。

 上に着ている白衣のポケットに手を突っ込み、口元をほころばせている。

 

「お前と共闘するなんて夢にも思ってなかったよ」


「あはぁ。かわいい乙女だから、そんなこともあるよぉ」


「どこが乙女だよ、どこが。」



 地面を踏み砕くほど強く足に力を込め、弾丸の様に突進する。

 足で地面の小石を掬い上げ、目の前のアユーダの顔に思い切りかけた。

 視界が防がれようともおかまいなしに伸ばしてくる右手を、その場で這うように屈んで避けた。

 

「あはぁ。相性バッチリって奴かなぁ?」


 俺の頭上をロジーが飛び、アユーダの顔面に蹴りを叩き込んだ。

 蹴られたあいつの体が面白いように吹っ飛び、道路の向こうに消えていってしまった。


「俺が蹴ったときは全く効かなかったのに……」


「剣を主に使ってる人に格闘で負けたら、私の立つ瀬がないよぉ。強いて言うなら、鍛え方の違いかなぁ?」


 あっけからんとそう言い放つロジーの左足には、紫色の液体がべっとりと付着していた。

 俺でも叫んでしまうほどの激痛なのに、冷や汗一つかかずに笑みを浮かべている。

 メスゴリラだからと言うべきなのか、ロジーだからと言うべきなのか。


 突然、周囲にある液体の水溜りが波紋を生み出しながら震え始める。

 ロジーの足元にあった水溜りから紫色の上半身が飛び出し、ミチミチと音が鳴るほど強く足首を掴んだ。


「いっ、いたたたた!」


 流石に痛がったロジーを横目に、水溜りから飛び出したアユーダの顔面に飛び膝蹴りを決めた。

 相変わらずダメージが入る様子はないが、それでも少しは怯んだようだ。ロジーの足を離し、水溜りの中に姿を消す。


「おい、大丈夫か?」


「ん~……ちょっと厳しいかも。直接触って見てくれないかなぁ?」


 ロジーが左足を伸ばしてくるので、仕方なく近くに寄る。



「そこっ! じゃあ、頑張ってねぇ~!」


「ぬわっ、何すんだお前ぇえええ!」


 いきなり首根っこを掴まれ、思い切り空に放り投げられた。

 突然放り投げられたせいで姿勢もままならず、右手に掴んでいた剣も落としてしまった。


 その隙を見計らったようにアユーダがこちらに飛び上がり、口から出した泡で空を覆い始めた。


「マジやばいって! 本当に死ぬって!」


「総帥……私を褒めてくださいねぇぇぇえええ!」


 泡を吐き出したアユーダ自身が周囲の泡を傷つけ、再びガスの漏れるような音が耳の中に入ってくる。

 先ほどは運よく建物の外に逃げて衝撃を逃がしたが、こんな状況で受ければ流石に死んでしまう。


 とにかく頭を守ろうと両腕を目の前で交差させた瞬間、腕の隙間に何かが飛んでくる。

 鉄製の義足で、こちらからも、時限爆弾のタイマーが進むような音がかすかに聞こえる。


「あいつ……もう俺は知らんぞ!」


 泡を掻き分け、アユーダの襟を掴み取る。

 鎮痛剤の効果があるにも関わらず意識が飛びそうな激痛が走るが、唇を血が出るほど強くかみ締めて耐える。

 

「大気圏ってどれぐらいの高さなんだろうな?! 一回行って来て感想聞かしてくれ!」


 掴んだ襟を更に上に放り投げ、未だタイマーの音が響く義足を放り投げた。

 

「なっ……総帥、私は――」


 体を丸めて衝撃に備える体勢をした瞬間、轟音と共に体がバラバラになりそうなほどの衝撃が走った。

 大気が痛がっているように揺らめき、唸るような叫びを上げる。

 ミキサーの中に入れられたように体が回転し、最後には硬い何かに背中を思い切りぶつけて着地した。



「ハァ……ロジー! お前、殺す気か!」


 ゆっくりと目を開けると、真っ先にこちらをニヤニヤとした笑みで眺めているロジーの顔が目に入った。

 全身から流れ出る血を抑えつつ、笑顔を浮かべているそいつの額によくしならせたデコピンを決める。


「あはぁ。ごめんねぇ」


「……それで、アユーダはどうなった?」


「ん。多分、あれだねぇ」


 赤くなった額を右手で押さえつつ、左手で夜空を指差した。

 紫色の流星が、線を描きながら地平線の彼方へ向かって飛んでいっている最中だった。

 軽く溜息を吐き、肘で頬杖をつきながら言った。


「……生きてると思うか?」


「絶対生きてるだろうねぇ。しばらくは帰ってこないから、実質勝ったようなものだけど」


「それならいいか。すまん、ちょっと止血とか手伝ってくれ」


 瓦礫の中からゆっくりと体を起こし、腕に刺さった鉄の杭を引き抜いた。

 義足の代わりの細い鉄の棒の調子を確かめているロジーにそう言い、ヒビが入っていない場所にへたり込んだ。

 

 

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