ep.125「紫毒」
何とか闇市に辿り着いた。
相変わらずの赤い絨毯に扇情的な雰囲気が漂っているが、今日は人が居る気配が全くない。
やはり全員逃げてしまったのだろうか……。
「まあちょうどいいか。誰も居ないなら商品はタダだ」
近くのタバコ屋とは名ばかりの麻薬取引所に入り、何か火が付けれそうな物を探す。麻薬はキロで目が飛び出るような額になるが、流石に今盗んでも邪魔になるだけだ。
木製の古い机の引き出しから一ダースで纏められたライターを発見し、包装紙を引き裂いて取り出す。
「……やだなぁ」
剣の先をライターで炙り、真っ赤になったところで火を消す。
熱で傷口を閉じるなんて初めてだが、やらないという訳にもいかない。……接着剤でも在れば話は別だが。
「ふぬっ! ……? あんまり痛くないな」
傷口に熱した剣の先を押し当てるが、予想してたよりかは何てことはない痛さだった。
例えるなら、針で指を刺してしまった程度の痛みだ。想像していた痛みは針で目を抉られるぐらいだった。
傷を全て塞ぎ、剣を鞘に納める。
「後はどっかで血を盗んで輸血でも……まあ最悪そっちはいいか」
貧血で少し頭がくらくらするが、問題なく歩ける。
「今まで遭遇した中で一番痛かったのは何だろうな……」
ふと、そんな考えが頭の中をよぎった。
あのクソ竜に嚙まれたときはアドレナリンのせいで痛みが吹っ飛んでいたし、ルマルに殺されたときは一瞬で意識が飛んでしまった。
そうなると、一番痛かったのは……
「アユーダの紫の液体か……」
思い出すだけでも震え上がるような、想像を絶する痛みだった。空気に触れるだけでも失神しそうな痛みが走るのだから本当に恐ろしい。
「まあ、あんな化け物みたいなヤンデレと二度と会うことはないけどな!」
フュジさんやパズルさんの方に任せておけば問題ない。
闇市の出口に近づき、夜空に輝く星を眺めながら歩いていたときだった。
ボタリ、と目の前に何かが落ちてきた。
スライムを地面に落としてしまったときのような音だ。おまけにシューシューと溶けるような音まで聞こえてくる。
一度肩が持ち上がるほど息を大きく吸ってから、地面に落ちた何かを見る。
紫色のスライムのような物が、コンクリートの地面を吸収するように溶かしていた。
「やっと見つけた……これで総帥に褒めてもらえるわ……」
聞き覚えのある声が響き、ゆっくりと目を閉じて覚悟を決めた。
目を開け、空を見上げる。
「はぁ……はぁはぁああああああはははは!」
紫色の泥のような液体を身に纏ったアユーダが、ビルの屋上からこちらを眺めていた。
綺麗なフォームで回転しながら飛び降り、地面のいたるところに紫の液体を撒き散らしながら着地する。
「総帥……総帥……」
頬を赤らめ、自分の体を抱きしめながら体を震わせる。
本当にどうしよう。
「……うん。」
とりあえず、剣を構えた。
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