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ep.121「無線」

 大通りの端に座り込んでいたギネブアさんを連れ、宇宙船の元まで戻ってきた。

 

「ん、おお? ワシの宇宙船がないぞ?」


 フュジさんが頭をかきながら唸る。……きっとなくなっている原因は、あの二人が乗っていったからだろう。

 第三チームの宇宙船にルマルと共に乗り込み、運転席にどっかりと深く座る。


 ふと、無線の赤いランプが点滅していることに気づいた。

 

「坊主~、すまんがワシとギネブアもこの宇宙船に乗せ……無線が来てるじゃないか、どこからだ?」


「地球ですね。それも隊長から」


「そりゃああれだなぁ~。先に焼肉の準備をしてくれてるかもしれんぞ」


 屈託のない豪快な笑い声をあげるフュジさんに呆れた溜息を吐き、無線をスピーカーにして宇宙船と繋いだ。

 まあ、早く帰ってこい、とかそんな下らないことだろうと高を括っていた。



 最初に響いたのは、酷いノイズ音。

 予算が万年足りていない侵略隊とはいえ、流石に命を懸ける宇宙船の金を削るほど間抜けではない。つまり、無線機などの設備も最新式、銀河一つ分離れていようがノイズなど起きるはずがないのだ。


 耳が割れるようなノイズが宇宙船内に反響し、今にも事切れそうなほど小さくか細い声が聞こえてくる。

 

『……おい、おい、今無線に出たのは誰…だ?』


 しわがれているが、どこか大人の気品を漂わせるような低く重い声。その声が、今にも命を落としそうなほど途切れ途切れの言葉になって紡がれる。

 後ろから駆け寄ってきたフュジさんが奪い取るように無線機のマイクを掴み取った。


「隊長! ワシだ、フュジだ。一体何があった?!」


『ああ、フュジか……。防衛隊が裏切ったんだ。地球全体を潰す勢いで暴れてやがる。』


「何?! そいつは一体どういうことだ!」


 防衛隊が、裏切り……?

 いいや、例えそうだとしても、地球には何の異常もないはずだ。あの人が居るのだから。


「そっちにはテュエマタールが居るだろ! あいつなら防衛隊全員でも十分に相手取れる!」


『……テュエマタールも向こう側だ……』


 班長も一緒に……? 一体地球で何が起きているんだ。

 延々と同じところを何度も廻り始める思考を、自分の頬を平手で叩いて正気に戻す。とりあえず隊長の話を聞かなければ何も始まらない。


『裏切りの主犯は総帥だ……それと、私から直接最後の任務を言い渡す。』


 一度そこで言葉が区切られる。無線を挟んだこちら側にも聞こえるほど大きく息継ぎをした後、威厳のある声で猛々しく叫んだ。


『侵略隊全隊員に言い渡す! 直ちに地球に攻撃を仕掛け、防衛隊と総帥を始末しろ! ……以上だ。グッ――』


「おい、隊長! 隊長……クソ!」


 フュジさんがマイクを乱雑に叩きつけ、近くにあった椅子に勢いよく座り込む。

 本当に何がどうなってるんだ。

 

「今の無線は一体どういうことなんだ?!」


「パズルさん、ポルトロンさん。こっちも状況が全く掴めないんです……」


 第三チームの宇宙船に二人が乗り込んでくる。

 宇宙船内にどろどろとした怒りや戸惑いといった重苦しい空気が漂い始めた。どの人も大抵貧乏ゆすりをするか頭を抱えているし、現に俺も貧乏ゆすりで何とか心を落ち着けようとしている。

 

「……ワシは行く。地球が防衛隊のせいでヤバいんだろ? 上手い酒と楽しい銃弄りが出来なくなっちゃあ困るからな」


「私も行くよ。……あれからずっと考え直して、リティは自分の意思を最後まで貫き通したと思ったんだ。なら、私もそれと同じようにしたい」


 二人がそう言いながら立ち上がり、自分の装備や体の調子をチェックし始めた。それに続き、パズルさんとポルトロンさんが首を回し始める。

 

「……む、無理ですよ! 向こうは防衛のプロ、おまけにこっちは体力も資材も人員も足りていない、死にに行くようなものですよ!」


 運転席から身を乗り出し、四人に向かってそう叫んだ。

 つくづく自分の弱さと浅ましさが嫌になる。結局、立ち向かうこともせず逃げているのだ。

 

「ま、そうだわな。ワシの銃弾も全く足りとらん」

「僕も武器と医療品のピースがもうなくなってきたんだよね」

「私はそもそもの体力がな……」

「いくら触れば殺せるといっても、私にも体力の限界がある」



 四人は口々にそう言いながらも、戦う準備を止めない。


「向こうは防衛のプロ、そんなもんはわかってる。ワシから言わせて貰えば、それがなんだ?

 

 ワシらも侵略のプロじゃないか。いくら厳しい状況だろうが、やりきるのがプロってモンだ。」


 フュジさんが拳銃を腰のホルスターに納め、そう言った。

 その言葉をはやし立てるようにパズルさんが口笛を吹き、フュジさんが彼を怒鳴る。


「あーあー、ごめんってフュジ。というか永宮君、君も十分プロと言い張ってもいいよ? というか君がいないと全員死んじゃうだろうね」


「か、かなり強制的ですね……」


「まあね。けど、それぐらい強引の方が多少動きやすいよね?」


「……それもそうですね。」


 また逃げようとしていた自分の心を引き締める。その場で止まっていれば、結果になんぞ辿り着かない。過程という道も進めない。


「侵略隊永宮、任務に参加いたします!」


「よし、その意気だ坊主! 


 侵略隊、出発するぞ!」 


 気を引き締めるように勢いよく頬を叩く。乾いた音が響くが、誰も気にはしていない。

 フュジさんに運転席を譲り、宇宙船の扉を閉める。瞬間、エレベーターのような独特の浮遊感が足元から伝わってきた。


「……この空気を断ち切るようで申し訳ないのだが、これは私も参加していいのか?」


「参加していいのか? っていうよりかはもう参加してるんだよ。一人でも多くいないと全滅エンドまっしぐらだからね。」


 パズルさんがルマルにそう言っている光景を眺め、少しだけ苦笑いする。ほぼ強制的に誘われたな……。



 ドラケニクス王星を覆っていた竜形の白い霧を突き破り、黒い宇宙空間へ飛び出した。

 なんとなくだが、宇宙空間に出た瞬間、竜が祝福するように一際白く発光したような気がした。あの星での戦いをよくも悪くも見守ってくれた竜に対し、硬く握った拳を突き出した。


「何をしているんだ?」


「ああ、いえ、なんでも……アハハ」


 やったはいいものの、ポルトロンさんに指摘されたせいで少しだけ恥ずかしくなってしまった。やはり無駄に格好つけた行動は似合わないということを、改めて理解させられた。




改善点などあればご指摘いただけると嬉しいです。

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