ep.116「初めての」
泥沼の中に沈んでいた意識が何かに引き上げられるように、目をパッチリと開ける。
目の前には、光るサイリウムを手の中で回しながら唇を尖らせているパズルさんがいた。
「危ないなぁ。僕が傷を消して輸血しなきゃ死んでたよ」
「ありがとうございます、パズルさん」
簡素な義手が付けられた右手首を軽く回し、ゆっくりと立ち上がる。
「脳の中の血管とかは……」
「ああ、そっちも無理やりくっつけといたよ。一度頭の中に手を突っ込んだから、病院に行った方がいいね」
真っ二つに折れてしまった剣を拾い上げ、鼻っ柱を指で摘みながら唸る。
今まで剣一筋で戦ってきたから、これがないというのは考えられない。徒手空拳もできるにはできるが、流石にそれでは……。
そんなことを考えていると、パズルさんが猜疑深い表情を浮かべ、近くの手ごろな瓦礫に座っているルマルの方を指差した。
体から流れ出る血を自分の服で止血し、軟膏のようなものを塗りつけている。
「アレ、どうするの? 確かヒュイド族の族長でしょ? まぁ、僕は生かそうが殺そうがどっちだっていいんだけど……」
「ええ、まあ、殺す気は今のところないですね」
「ふーん……相当強かったはずでしょ? 多分、というか絶対だけど、あいつは僕より強い」
パズルさんが懐から何枚かのピースを取り出し、片手で組み立てる。
銀色に鈍く輝く鞘と剣が空中に出現し、綿毛のようにゆっくりとした速度で手の中に落ちてくる。
腰に携えた日本刀を少しだけ揺らして立ち上がり、ポリポリと頭をかく。
「剣、ないんでしょ? さっきまで使ってたような良い物ではないけど、磁力の機能は付いてると思うよ」
「これは……ロジーと戦ったときに壊された剣?」
何重にも巻きつけた安っぽい柄に、ガラスの様に反射する肉厚の刀身。初めて侵略隊に来た時に支給された剣だ。
今まで使っていた剣とは比べ物にならないほど軽く、少しだけ扱いにくい。
「ヴォランのところに行こうか。……まぁ、ポルトロンが先に行ったし、もう終わってるような気もするけど」
「そうですね。ルマル、お前はどうする?」
「……ついて行きましょう。さすがにさっきの勝負をした後に勝てるなどと調子に乗る気はありませんしね」
鞘にピッタリと収まった剣を腰に差し、深めに息を吐く。
背後に居るルマルが立ち上がったのを横目に眺めた後、パズルさんがあくびをしながら歩き始めたのを追いかけた。
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