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ep.114「諸刃の剣」

 ずいぶん長く眠った感覚があり、体全体が心地よく痺れている。

 胸に突き刺さった瓦礫をいつの間にか治っている右手で引き抜き、近くに落ちている剣と鞘を拾い上げる。

 弓のようにまがった背骨をミチミチと音をたててのばし、背筋を定規のようにぴんとする。


「……私は……確かに殺したはず」


「死んだよ。何とか一回だけ、生き返ることができたけどな」


 目を驚いたように大きく開き、静かな声色で話すルマル。

 正直なところ、ルマルに勝つ確信はない。ただ、勝てそうな見込みは見つかった。

 

「今までさ……何度か、急に強くなれたことがあったんだ。」


「? 一体何の話を……」


「血を流しすぎたせいか、心臓が異様に速く脈打つ……そんな時に、異常なほどに強くなれたんだ。」


 銀鱗竜と戦ったときの妙な力も、フラムと戦ったときの異様にクリアになった感覚も。

 全て心臓が速く脈打っていた。全身の血管に恐ろしい量の血液が通っていた。


「だから、何だと言うのです?」


「ちょっと待ってて欲しいなって。失敗したら俺は死ぬし、お前に確実に勝てるほど強くなるわけでもないから」


「……まあ、少しだけなら」


 ルマルが近くの瓦礫の埃を払い、その上にゆっくりと膝を組んで座る。

 ぼんやりとした目つきで視線だけはこちらに向けているが、俺の行動には全く興味がなさそうだ。

 

 右手に持った鞘を胸に当て、磁力を徐々に強めていく。

 血中の鉄分をグイグイと動かし、心臓の中に小さな鉄の塊をいくつも作った。


「グッ……グゥゥゥウウウ……」


 唇を全力でかみ締め、気が飛びそうなほどの激痛を堪える。

 心臓の中に集まった血液を鉄塊で爆発させるようにかき混ぜる。エンジンの中でガソリンが爆発してタイヤを動かすように、全身の血流が恐ろしい速度で巡回し始めた。

 手の甲の血管がビキリと音を立てそうなほど浮き上がる。


「……おお。これは素晴らしい。心臓を無理やり動かして、血流を速めましたか。」


「よく見抜けたな、ルマル。」


「まあ、一応。それより、早く始めないと危ないんでしょう? その血流の速度に、人間の血管が耐えられるはずがありませんからね」


 腹が立つが、ルマルの言っていることは全て正しい。

 現に、体中の血管がブチブチと音を立てながら切れているのが聞こえてくる。長く続ければ脳の血管が切れて死んでしまうだろう。

 ただ、それとは裏腹に、思考がやけにクリアだ。背後に目でもあるかのように、周囲の風景や動きが全て理解できる。


 ルマルが服を軽く払いながら立ち上がり、両足を肩幅程度に開いて、こちらを見据えた。

 右手に持った剣の切っ先をルマルの額に向け、空から降り注ぐ光にギラギラと反射させる。


「行くぞ、ルマル!」


「いつでもどうぞ」




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