ep.10「たい焼き」
「面白いところってここですか?」
水樹さんと、小さなカフェに来た。
内装の家具などが全て木製で明かりも淡いオレンジ色だ。今時珍しい落ち着けるカフェだ。
窓側のテーブル席に座る。
「面白いところがここから見れるのよ。ほら、あれ」
パフェを食べている水樹さんがスプーンで窓の外を指す。
そこには、たい焼きのキッチンカーが止まっていた。
中では一人の女性がたい焼きを作っている。
バンダナで髪を纏め上げている黒髪の若い女性だ。
だが、キッチンカーのボロボロ具合からあまり儲かっていないようだ。
「最近見なくなったキッチンカー、しかもたい焼きのね。あんまり儲かってないみたいなのはわかるわよね」
「はい。けど、これの何が面白いんですか?」
窓に水滴がポツポツとつく。
雨が降り始めたようだ。
キッチンカーの女性も店じまいの準備をし始める。
「たい焼きって言ったら、あいつを連想しない? いつもたい焼きの袋を小脇に抱えてるあいつよ」
キッチンカーに走り寄る一人の男性。
特徴的なシルエットで、今日も一緒にいた人だ。
「プフェーアトさんじゃないですか!」
馬のマスクを頭に被ったプフェーアトさんが走っていく。
キッチンカーの女性から、たい焼きが大量に詰まった袋を受け取っている。
「あの馬ね。キッチンカーのあの女性に惚れてるのよ」
「ええ!?」
班長に続きプフェーアトさんの好きな女性まで知ってしまった。
入隊してまだ日が浅いのに、これはどうなのだろうか。
「さっさと告白すればいいのに。馬のマスクのせいでとかあーたらこーたら言って告白しないのよ。それでも、何とか助けになりたいと思って一日の終わりにたい焼きの売れ残りを全部買ってるのよ」
「言葉にしにくいですが、なんと言うか、純情ですね…」
パフェの最後の一口をほお張る水樹さん。
食べ終わったのを見計らったようにカフェの主人がコーヒーを運んでくる。
「のりえ、また見てるのか。お前も人の恋におせっかいを焼く前に、自分のほうも心配したらどうだ?」
「何言ってるのお父さん。私はまだ二十代よ? 大丈夫よ」
「お父さん?!」
思わず立ち上がる。
水樹さんとカフェの主人は驚いた顔でこちらを向いた。
「何驚いてるのよ永宮クン。そっくりでしょ?」
カフェの主人の顔を見る。
顔のしわが深くて頭は白髪混じりの黒髪。
男が憧れるかっこいい老け方という感じだ。
何よりでかい。肩幅と身長が大きすぎる。
水樹さんの方を見る。
まぁ美形と言えば美形だが、滲み出る残念さが隠れきっていない。
頭に生えた髪の色も水色だ。
小さい。どこもかしこも。
よく見てみれば、主人と目元が似ていないこともない。
「いや、目元がちょっと似てるぐらいです。普通わかりません」
「ハハハ! のりえは母さん似だからな、身長のほうも」
「ちょっとお父さん!」
身長のことについて主人が触れた瞬間、水樹さんが立ち上がって怒った。
水樹さんが殴るのを、笑いながら受け止めている主人。
「永宮君といったね。どうだい? うちの娘は」
「勘弁してください」
「永宮クン?!」
三人の笑い声がカフェの中に響き渡った。