ep.111「生き返りの成果」
大通りの奥に、圧倒的な存在感を漂わせながら佇んでいるその白い建物。
その建物の前に、いつもの灰色の作業服ではない、黒い服を身に纏ったヴォランさんが立っていた。
先ほどの黒い犬がヴォランさんを守るように隊列を作り、こちらを睨みながら涎を垂らしている。
「よおヴォラン。調子はどうだ?」
「ああ、これ以上ないぐらいに最高だ。心ここに在らず、って感じだな」
フュジさんが腰のホルスターから銀色に鈍く輝く銃を引き抜く。それに合わせるように俺も剣を引き抜き、黒い犬達とヴォランさんに向かって構える。
地面に犬の涎が落ちる音のみが響く。暖かく優しい風が吹き、服と前髪をサラサラと靡かせる。
「坊主、犬共を頼む!」
「わかりました!」
その言葉と共に、犬達が一斉に足を動かし始める。口から出した涎を後方に糸引きながら、こちらに向かって大きく口を開けながら飛び掛ってきた。
拳銃を素早い動きで犬に照準を合わせ、飛んできた前方の犬二匹の頭を撃ち抜いた。フュジさんの体を腰から持ち上げ、ヴォランさんが居る方向に向かって思い切り放り投げる。
「ヴォラン! ワシから逃げようなんて思うなよ!」
「中に来い。出来るだけ綺麗に始末してやる」
犬の隙間から、フュジさんとヴォランさんが揉み合うように建物の中に転がり込んでいくのが見えた。
心の中でガッツポーズを決め、周囲を取り囲む犬の首を剣で切り落とす。ボタボタと血を滝のように流す胴体と頭がゴトリと地面に落ち、地面を赤黒く染めていく。
犬というよりかは、体が黒いボコボコとした化け物なので、そこまで罪悪感は感じない。死体を蹴り飛ばし、数が減るどころか増え始めている犬達を睨む。
「何十……何百匹か? キリがないな……」
地上どころか、建物の屋根の上にまで犬達が並んでいるほどの数だ。一匹一匹はたいした強さではないのだが、ここまで多いとなると体力の方が持つか怪しくなってくる。
「まあ、仕方がないか。どうせ全部殺さなきゃ何もできないし……」
剣を右手で握りなおし、犬に斬りかかろうとした瞬間。
ご機嫌なトランペットの音が鳴り響き、周囲の犬達の体がバキベキとひしゃげるように変形しはじめる。
悲鳴をあげながら骨と筋肉が伸び縮みするような変形を繰り返し、最後には地面に紙のように薄く張り付いてしまった。その光景はさながら、黒い犬のカーペットである。
「うん、中々いい響き方だ」
背筋に強烈な悪寒が走り、全身の毛穴が一気に開く。ガタガタと全身が震え始め、剣を握る手がブルブルと揺れる。
その男は、手に持った金色のトランペットを地面に捨て、それを足で軽く踏みにじった。トランペットは先ほどの犬のようにグチャグチャにひしゃげ、元々形など持っていなかったかのような金属板に変貌する。
金属製のトランペットをゼリーのように潰した男は、こちらを一瞥した後、ピシっと姿勢を正した。
「こんにちは。私の名前はルマル・ジュスティス。以後、お見知りおきを」
緑色の髪を短く纏め、ドクロの首飾りをかけたルマルが、ゆっくりとお辞儀をする。
口角を上げて目じりを下げた、笑顔のお手本のような顔をこちらに向けて「ハハハ」と落ち着いた声色で笑った。
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