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ep.110「不明な信念」

 煙草を足で踏み潰し、ドクドクと血が流れ続ける胸を手で押さえる。

 懐に入れていたプフェーアトさんのマスクが盾になって、出血の割には傷が浅い。包帯を巻きつければしばらくは大丈夫だろう。代わりに馬のマスクが二つに分かれてしまったが……。


 その場に座り込もうとした瞬間、鋭い炸裂音が周りの空気を震わせながら響いた。

 何十人もの騒々しい足音と共に、向かい側の建物の屋根から見覚えのある人が飛び降りてくる。


「ワシの弾も無限じゃないんだぞ、クソ!」


 額から汗を一筋流したフュジさんが、拳銃を持ってこちらに走ってくる。

 銀色に輝く銃に六発の弾を一瞬で込め、降りてきた屋根の方に構える。


「フュジさん、どうしたんですか?」

「ああ?! ああ、坊主か。すまんがちょっと手伝ってくれるか?」


 屋根の上から、全身がボコボコに膨らんだ犬型の化け物が大量に飛び降りてきた。

 体が全て黒く変色し、その見た目に似つかわしくない可愛らしい赤い首輪をつけている。

 口から真紅の血が混じった涎を垂らし、グルルとうなりながら助走をつけて駆けて来た。


 胸に当てた手を腰の剣に沿え、磁力の反発力を生かしながら一気に引き抜く。

 前方の数匹の黒い犬の首を切り落とし、他の犬の脳天をかかと落としで叩き割る。

 噛み付こうとしてきた犬の口の中に手を突っ込み、脊椎を無理やり体から引っこ抜く。


「……おお。」


 犬の死体を蹴り飛ばし、剣を鞘に納めながらフュジさんの元に向かって歩く。

 

「坊主、滅茶苦茶強くなってるじゃないか! ワシが逃げ回ってた時間が馬鹿みたいじゃないか。どれ、傷を見せてみろ、処置してやる」


 フュジさんが拳銃を腰のホルスターにしまい、ポケットの中から包帯を取り出す。

 その場にあぐらをかいて座り、服の前側を開いてフュジさんに見せる。


「……あそこに居るのは、例の士反英史とかいう坊主か。……仲間を殺させるようなことをさせてしまってすまん」


 白いタオルで血をふき取り、包帯を巻きながらフュジさんが言った。

 背後には、英史の遺体がある。一輪のたんぽぽと共に幸せそうに目を閉じながら佇んでいる。

 プルプルと顔を横に振り、静かな声で話す。


「いえ、大丈夫です。……フュジさんは、自分の信念ってありますか?」


 処置を終えて立ち上がったフュジさんが、きょとんとした表情を浮かべた。自分の顎を押さえてうんうん唸り、小首をかしげたまま言った。


「ワシ? うーん……わからんなぁ。心の支えにしてるモノはいくつかあると思うぞ。ただ……」


 そこで言葉を区切り、恥ずかしそうにこめかみを指でポリポリとかいてから言った。


「仲間を助ける、それだけは絶対に曲げない気持ちだ。これが信念、って言うのか?」


 臭い台詞を言った恥ずかしさを紛らわすように、ハハハと小さく笑いながら背中を向ける。

 服を元に戻し、剣に手をかけながらゆっくりと立ち上がった。



「……ワシはさっき仲間を助けるなんて言ったが、これから仲間、ヴォランを殺しに行く。……すまないが、手伝ってくれないか?」

「……はい。もちろんですよ」


 フュジさんが、広場を抜けて道の奥へ走り始めた。

 英史の遺体を少しだけ眺めたあと、深く深呼吸してから、フュジさんの背中を追いかけた。


 

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