ep.107「逃げない夢の選択」
長い長い大通りの先は、開けた広場になっていた。
中央に水の止まった噴水がポツリと設置されていて、黒い学生服を着た男がこちらに背中を向けて腰掛けている。
横に置いた紺色のバッグを優しく持ち上げ、ゆっくりとこちらに振り向く。
「……これも、これも、これも、どれも……」
ボストンバッグをひっくり返し、底の方をパンパンと叩く。
幸せそうなにっこりとした笑顔を浮かべた女性の頭が大量に地面に転がり落ちる。どれもとても良い笑顔を浮かべていて、口に一輪の黄色いたんぽぽを咥えている。
完全に血が抜け切っているのか一滴も血が流れ出ない頭から英史に視線を移す。
「全部違うんだ。あの子の笑顔じゃないんだ」
胸ポケットから写真を取り出し、涙ぐみながら眺める。
散らばった頭を乱雑に蹴り飛ばしてから写真をポケットに納める。
「人は生き返らない。だから僕はあの子の代わりを探してきたんだ」
英史が勢いよく右腕を横に振り、袖の中から出てきた鉈を握る。
こちらも腰に差した剣を握り、ゆっくりと引き抜く。
噴水を間に挟んで互いににらみ合う状況が続く。空に浮かんだ白いドラゴンの霧が黒く染まり始め、ポツポツと雨が降り始めた。
「けど、見つからなかった。そして、いつかの墜落した星で誘われたんだ。大切な人を生き返らせたくないか……って」
「そんな夢みたいな方法を信じるのか。英史」
「信じるさ。たとえ夢のようなことでも、もう逃げてチャンスを無駄にするのは嫌なんだ」
土砂降りになった雨が体を濡らし、髪の毛が額に張り付く。
ゴロゴロと音を鳴らしながらすぐそばに雷が落下するが、互いに睨み合うのは止めない。
顎に水が集まり一滴の水滴となって、地面にポチャンッと落下した。
「今回は誰も助けに来ない! 行くぞ英史!」
噴水を飛び越え、空から英史に向かって斬りかかる。
右手に持った鉈で受け止められ、ガリガリと金属が擦れあう嫌な音を鳴らす。
「僕に遠慮は要らない。引き分けじゃない、本当の決着をつけようか永宮!」
英史が鉈を振り払い、俺の体を思い切り吹っ飛ばす。相変わらずの馬鹿力だ。
何回か英史と戦ったが、全て引き分けか仲間に助けられただけだ。今回は、本当に死ぬ覚悟を決めなければならない。
右手に持った剣を真っ直ぐに構え、英史を鋭く睨んだ。
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