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ep.105「私は」

 道の途中で足を止め、目の前に居る人物に向かって手を振る。

 馬のマスクを被ったプフェーアトさんが、こちらに背を向けながら立っていた。

 ゆらゆらと体を揺らしながら、小さい何かを抱きしめている。


「プフェーアトさん、何抱きしめてるんですッ……?!」


 剣を抜き、プフェーアトさんに向ける。

 腕の中に納まっていたのは、黒い円盤をこちらに向けた水樹さんだった。プフェーアトさんの胴体をすり抜けて投げてくる円盤を左に転がりながら避け、体勢を立て直す。


「……」


 プフェーアトさんがゆっくりとこちらに振り返った。

 首から、真紅に輝くペンダントをぶら下げている。ゆらゆらと体を揺らし、いつもの元気な雰囲気は全く漂わせていない。

 

「水樹さん……」

「わかってるのよ。私が外道のようなことをしてることは」


 ブーメランのように旋回しながら帰ってくる円盤を、右手で受け止める。

 プフェーアトさんの腕の中からゆっくりと出て、こちらを鋭く睨む。

 陽気な酒飲みで、明るい性格の水樹さんはどこにもいない。どこまでも冷たい視線をこちらに向け、自分の頬をさすりながら言った。


「それでも、私の願いはそんなにいけないことなの? 普通の人が何も感じずに受けていることを、私だけが望んじゃいけないっていうの?」


 髪の毛をグシャグシャに掻き毟る。

 手の甲には無数の引っかき傷がついていて、目の周りも真っ赤に腫れている。頭を何度も円盤にガンガンとぶつけ、額から血が垂れ始める。

 あんなに取り乱している様子は今まで見たことがない。水樹さんの体に別の人が乗り移っているような、そんな考えまで抱くほどだ。


「プフェーアトさんに首飾りを着けて、洗脳したんですか……?」

「えぇ、そうよ。私が少しだけ涙ぐんだら、すぐに隙を見せたわ」

「なっ……」


 今までにない種類の、裏切られたような怒りを感じた。

 右手に持った剣を柄がひしゃげるほど強く握り、水樹さんの脳天目掛けて剣を振り下ろした。

 甲高い金属同士が衝突する音が響き、剣が止められる。プフェーアトさんが小さなナイフを逆手に持ち、剣を弾く。


「グッ! ……プフェーアトさん、水樹さん……」


 剣を弾かれ、腹に鋭い蹴りをぶち込まれる。

 後方に数メートルほど吹っ飛ばされ、体勢をすぐに立て直す。

 

 プフェーアトさんが鉄の鏃を地面に突き刺し、細い糸を光に反射させながら伸ばす。

 水樹さんも円盤を持った手をクルクルと回し、手首の調子を確認している。

 ……何もしなければ殺されるだけだ。向こうは、完全に俺の事を殺す気でいる。


 右手に持った剣を上段に構え、水樹さんとプフェーアトさんを睨んだ。




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