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ep.103「道連れの最後」

「俺は、体に触れている囲まれた物を、どこにでも繋げる……」


 首の骨をバキバキと鳴らしながら、背中から生やした長い腕を、ストレッチでもするかのようにしなやかに動かし始めた。

 黒川さんは少し疲れているようで、ハアハアと息を荒くしている。

 腕の中に入った指を取りたいが、取る時間も道具もない。地面に落ちた剣を拾い、痛みを紛らわすように強く握った。


「こんだけでけえ腕で囲いを作れば、人一人ぐらい通すのは余裕だよなぁ?!」


 メノンさんが長い腕で巨大な円を作る。

 繋がれた円の向こうは闇一色で、周りの空気が暗闇に向かって引きずり込まれ始める。

 

「ふむ……。宇宙に繋いだのか」


 リティさんが落ち着き払った様子でそう言い、地面に自分の足を突き刺す。

 周りの空気を滅茶苦茶に吸い込み始め、俺の体も引きずり込まれそうになる。

 剣を地面に突き刺してその場に留まる。


「メノンさん、余裕で防がれてるじゃないですか!」

「ぐぬぅ~っ! これ、俺も動けないからどうしようもできないんだよ!」


 何でそんな手を使ったんだ! 

 位置的に一番リティさんに近いのは俺だ。そして円に一番近いのも俺だ。メノンさんとリティさんの間に、俺が挟まっている。

 なんとなくだが、黒川さんとメノンさんに、俺が動けという視線を向けられている。なぜだ。


「あーはいはいわかりましたよ! その代わり宇宙に飲み込まれたら呪いますからね?!」


 剣を地面から引き抜き、地面のかすかな出っ張りを掴みながら這いずる。

 足が引っ張られて浮いているせいで、ほぼ腕の力だけで動いている。右腕は指が入ったままで、正直かなりキツい。

 リティさんが自分の指を再び根元から噛み千切り、頬を膨らませる。


「リティィィィイイイイ!」


 頬を膨らませたリティさんの頭を、横から蹴り飛ばすネギブアさん。

 口から指を吐き出させるが、それと同時に宇宙に引っ張られ始める。

 右手で地面をガッチリと掴み、左手で飛んできたネギブアさんをしっかりと受け止める。


「十秒だ。十秒後にあの足を回収して宇宙に放り投げる!」

「は、はぁ? 何言ってるんですか?!」


 ギネブアさんが十からカウントダウンを始める。

 カウントダウンがゼロになった瞬間、恐ろしい速度で近くの建物が倒壊し始めた。吸い込む力に耐えられなくなったのだろう。

 リティさんに一際大きいコンクリートの塊が背後からぶち当たり、地面に足だけが埋まった状態で宇宙に吸い込まれていく。


「ぶん投げてくれ! じゃないとまた姿を現すぞ!」


 ギネブアさんを瓦礫が散らばる中に放り投げると、リティさんの千切れた足を地面から土ごと引っこ抜き、宇宙に向かって投げた。

 メノンさんがすぐさま囲いを解き、その場にへたり込む。空中に浮いていた瓦礫が地面に音を立てながら散らばり始め、大量の砂煙が舞う。



「ゴホッゴホッ……勝ったんでしょうか?」

「勝ったというよりかは、場外に押し込めただけだがな。あ~、クソ、酒も吸い込まれてやがる。黒川、この腕取ってくれ」


 メノンさんが、最初にリティさんが首から出していた血まみれの地面の上で溜息を吐く。

 黒川さんが本当に疲れた表情でメノンさんの背中の腕に手を伸ばす。

 ギネブアさんが砂煙が大量に目に入ったようで、必死に目を擦っている。


「大丈夫ですか?」

「ああ、これぐらいは……」


 目から涙を流し、目の中から砂を出している。

 顔を上に向けながら何回か瞬きをし、血の上に座っているメノンさん達の方を見た。

 


「メノン、黒川! そこから逃げろ、速く!」


 ギネブアさんが叫んだ瞬間だった。

 突然、地面の血から白い腕が黒川さんとメノンさんに向けて生まれる。

 

「ゲボッ……!」

「ガハッ……!」


 メノンさんが首を白い腕に掴まれ、口の端から血の泡を吐きながら、骨の砕ける音を響かせる。

 黒川さんは胸に腕が突き刺さり、体の中から肺を一つ抉り出され、ボタボタと赤黒い血を噴き出した。


「……私は血からも復活できる。そういえば教えていなかったな、ギネブア」


 地面の血液が一つに集まり始め、もぞもぞと蠢きながら人の形を作り出した。

 手に掴んだ肺を地面に投げ捨て、地面に転がっているメノンさんを見る。

 

「リティさん……あなた……」


 強く歯軋りをした後、剣でリティさんに斬りかかる。

 軽々とアッパーで顎を打ち抜かれ、脳天から地面に叩き落とされる。

 地面にうつ伏せになるように倒され、頭を上から押さえつけられる。


「ギネブア、また家族で集まる気は……ないか?」


 リティさんがか細い声でそう言った。

 地面に倒れたままリティさんの足を剣で突き刺すが、力が弱まる様子は一切ない。

 それどころか余計に強く踏みつけられ、一度息を吸うごとに口の中に血が入ってくる。


「私の本当の家族はあんたじゃないだろ!」

「……! ……そうか、知っていたのか……」


 ギネブアさんの言葉に、静かに、悲しそうな声で呟く。

 しばらく何も言わなかったが、再び言葉を、静かな声色で紡ぐ。


「本当について来る気がないなら……仕方ない。私はお前達を殺――」

「――せるとでも思ったか!? あぁ?!」


 メノンさんがリティさんの体を地面に引き倒し、息を荒くしながら口の中に手を突っ込む。

 すぐに立ち上がろうとするリティさんの両太ももを剣で深く切り刻む。何をするかはわからないが、これが最後のチャンスだ。

 しかし、メノンさんの表情がいつもと違う。諦めているように見えて、清々しいような……。こんな表情を以前どこかで……。


「黒ッ……川ァ! そろそろ空に帰らなきゃいけねぇんじゃねえのか?!」

「……! フハハッ、そうだな! 我ッ……グッ……も、そろそろ神として空に鎮座しておかないとな!」


 メノンさんが口の中から、銀色の金属のようなものを取り出した。

 苦しそうに血の泡を出しながら、リティさんの上に被さるように倒れこむ。

 黒川さんも背中から黒い腕を生やし、右手に銀色の塊を出現させる。


「……永宮よ、我は神としての指名があるのでな。ギネブアと一緒に離れるのだ!」


 体の周りが、水がカーテンのようになった物で覆われる。

 黒い腕でカーテンごとガッシリと掴まれ、ギネブアさんの方に思い切り放り投げられる。

 黒川さんも、どこか晴れ晴れとした表情をしている。いつもの高笑いではなく、口角を上げただけの、優しい笑顔をこちらに向けた。


 そうか。この既視感は。


「また……! また俺の前で死ぬんですか!」

「違うな。永宮、お前にはまだ未来がある! 俺みたいなおっさんとは違って、未来がな! ガムシャラでいい、自暴自棄になってもいい、前に進むことだけを考えろ!」


 メノンさんがそう叫びながら、空高くに銀色の塊を放り投げた。

 落下してくる銀色の塊に、黒川さんがよろめきながら、右手に持っているものを勢いよく投げた。

 

「永宮クン! すぐにここを……!」

「何言ってるんですか! 二人を助けないと!」

「馬鹿言うんじゃない! 私だって……辛いんだよ!」


 ギネブアさんに肩をガッシリと掴まれ、その場に転がされる。

 水のカーテンを二人で覆うように被せられた瞬間。


 強く、青い閃光が周りの景色を包み込んだ。

 その光はリティさん達のところから数秒ほど発生したあと、何事もなかったように一瞬で消えた。

 

「……永宮クン」

「わかってます。今の光は……もう、助かりません。この水のカーテンから出れば、死んでしまうこともわかります」

「……私の目は放射線も見える。少し離れて、休憩しよう」


 リティさん達が倒れている場所に背を向け、その場から離れるために歩き出した。



―――――



「……今のは何だ?」

「まぁ座れよ。お前ももうわかってるんだろ?」


 座れ、といっても、俺の方はもう体を起こすことすらできないが。

 デーモンコア。

 プルトニウムと炭化タングステンを合わせることで、臨界状態になる。そうすると、放射線が大量に発生し……被ばくしたものは、死ぬ。

 青い閃光は、臨界状態になったときに発生する光だ。チェレンコフ光、とも言う。


「黒川……酒出してくれねえか? ……黒川?」


 顔だけを動かして、黒川の方を見る。

 胸から血をドクドクとあふれ出しながら、目を閉じて微笑んだ状態で倒れている。もう、ピクリとも動いていない。

 ……そう、か。


「あークソ。酒はあの世までお預けかよ」

「ふむ……。どうやら、私も死ぬようだな」

「マジで? あーよかった。殺せるかなーって思ってたんだけど、そうか。いけたか」


 俺ももうすぐ死ぬ。そして、リティも死ぬ。

 奴の不死身の正体は、体の中に潜んでる超再生バクテリア、という微生物だ。それを死滅させるために、とんでもない放射線の量を発生させたのだ。


「被ばくしてから死ぬまでは時間がかかっちまうかもしれないが……」

「心配は無用だ。今まで何度も死んだツケが回ってきたのか、手の先から筋肉がボロボロと崩れ始めている」


 ひゃー、おっかねぇ。

 リティの指の先がボロボロと崩れていくのを見てから、空に視線を移す。霧で形作られたドラゴンの景色が見え、中々に風情がある。

 侵略隊に入ってからロクな死に方はしないと、ずっと身構えてきたが……。


「ま、誰かと一緒に死ねるだけでマシだな」


 意識が段々と薄れ始める。瞼が酒を浴びるほど飲んだときの様に重くなり、暗闇の中にオーロの姿が見えた。おまけに俺の大好きな酒まで持ってやがる。

 あっ! あいつ、俺の前で笑いながら飲んでやがる。あの野郎~……すぐに行ってぶん殴ってやる。


「リティ。じゃあな」

「すぐに会うことになる。またな、の間違いだろう」


 それもそうか。

 暗闇の中でオーロに手を伸ばし体に触れた瞬間、意識が、プツンと途切れた。




これから少し過去回が多くなります。

改善点などあればご指摘いただけると嬉しいです。

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