ep.102「殺し方」
「って気合込めたのはいいですけど、あの人本当に倒せるんですか?!」
「わからん! とりあえずやってみるしかねえだろ、黒川!」
黒川さんが背中から二本の黒い腕を生やし、血まみれのリティさんをガッシリと掴む。
バキボキと全身の骨が砕けている音が響いているにも関わらず、冷や汗一つかかずに自分の頭を捻りきった。
ゴロゴロと地面に転がる頭から、新しい体が一瞬で生えてくる。
「死なねえって言ったって、ファンタジーの世界じゃねえんだ! 絶対に方法はある!」
メノンさんがそう叫びながら、リティさんの方に向かって走り出す。
右手に持った剣を強く握り、その後ろを追いかける。
口から溶岩の様に熱い火を大量に噴き、肌色の部分が一片も残らないほど黒く燃え上がらせる。しゃがんだメノンさんの背中を踏み台にしながら、黒焦げの体を滅茶苦茶に切り裂いた。
肉片の一つ一つが赤い血を染み出しながら地面にボトボトと落ち、それを再度メノンさんが灰になるまで燃やし尽くす。
「……黒こげか。懐かしいな」
一瞬で地面から白い肌の腕が生え、そこからリティさんの体が新しく生まれてくる。
この人、本当にどうやったら殺せるんだ。
顔面に蹴りを決め、勢いよく後ろに飛んで距離を取る。
「……黒川、久しぶりにアレやるぞ! 永宮とギネブアはリティを抑えてくれ!」
「他人の神経を繋ぐのは苦手なのだが……」
黒川さんがメノンさんの背中に手を当て、目を閉じて動かなくなる。
何をするのかはわからないが、あの人たちの事だから無駄ってことはないだろう。多分。
「永宮クン、私の言うとおりに剣を振ってくれ」
「え?」
ギネブアさんが右目の瞼を指で開ける。白目の部分が真紅に染まり、リティさんの方を鋭く睨む。
睨まれているリティさんは、自分の指を根元から一本ずつゆっくりと齧っている。両方の指、十本を全て噛み千切ったあと、ゆっくりと胸に空気を吸い込み、頬を膨らました。
「逆右袈裟!」
「は、はいぃ!」
ギネブアさんがよく通る声で叫び、その通りに剣を斬り上げる。
手首が千切れそうなほどの衝撃が剣から伝わり、指の先がガタガタと震えるほど痺れる。
グシャグシャに潰れた中指が地面にボトリと落ち、地面に小さな水溜りを作る。
「指を飛ばしてきてるんですか?! あんな威力で?!」
「まだ来る、一発も通すんじゃないぞ!」
背後には、未だメノンさんの背中に手を当てながら目を閉じている黒川さんがいる。
何をしているのかわからないが、あの様子ではこの指を防げそうにはない。
再度頬を膨らますリティさんを睨みながら、耳と剣に全神経を込めた。
「右袈裟、唐竹、左薙ぎ、刺突逆左袈裟右薙ぎ唐竹左袈裟!」
速すぎるんだよ! 全然指が目で追えないし!
一発弾くごとに、手首の骨が軋む。剣に小さくヒビが入り始めるほどのとんでもない威力で、遂には手から剣が吹っ飛んでいってしまう。
さっきまで防いだ指の数は九本。つまり、あと一本残っている。
「永宮クン!」
「ギネブアさん、次はどこに来るんですか! 速く!」
「真正面だ!」
痺れる右手首を左手で掴み、真っ直ぐに伸ばしてリティさんに向ける。
銃弾よりも鋭く、速く飛ばされた指が手の皮膚を貫通し、腕の中を回転しながら突き進んでいく。
筋肉がミンチのように抉られる度に、意識が飛びそうな激痛が走る。
肩の手前の辺りでやっと指が止まり、ダラリと右腕から力を抜く。
「おーし、準備完了。大丈夫か?」
「……十秒丸々かかるとは……」
メノンさんが背中からとんでもなく長い腕を生やしながら、首の骨をポキポキと鳴らした。
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