プロローグ
公園のベンチに座り込み、空を見上げる。
冷たい風が吹く夜空には、思わず声を漏らしてしまうほどの美しい星空が広がっていた。しかし、今はそんなことに気をかけている場合ではない。
頭を両手でかかえ、股の間の地面に視線を落とす。
「はぁ~……これからどうしようかな~……」
不況の煽りだかなんだか知らないが、勤めていた会社が莫大な借金を残して倒産してしまった。
そのせいで今は一文無し、ついでに住む場所も失ってしまった。公園のベンチで寝るなんて初めての経験だが、今日はここで夜が明けるのを待つほかに方法はない。
「まだ二十代だってのに、さっそくホームレス気分を味わうとはなぁ……」
ガサガサとそこらへんのゴミ箱をひっくり返し、透明の汚いゴミ袋を回収する。この中に紙などを入れれば、枕代わりにはなるだろう。多分。
紙類が放り込まれたゴミ箱の中身を袋の中に放り込んでいると、一つのクシャクシャになった求人広告が目に入った。
丁寧にしわを伸ばし、電灯の下で広げながら文字を読む。
「……なっ!?」
どんな業種か、という欄よりも、先に給料の方に目が行く。
寮が完備されていて、社会保険も全額会社が負担。何より、給料が月に三十万……。初任給からだ。
前の会社でもこんなに待遇がいいことはなかった。……限りなく怪しい。
「こんな求人、誰だって捨てるよな……。けど……」
これに縋る以外、もう手立てはないだろう。募集人数は一人までと書いているが、間に合うだろうか。
近くの自動販売機の中から少しだけ金を盗み、公衆電話のボックスに入る。
緑の受話器を持ち上げ、祈るような気持ちで電話番号を一つ一つ入力した。
『もしもし。こちら侵略隊のゼバルですが』
「すみません。……まだ求人ってしてますか?」
『してますよ』
電話の向こうにいる男性が言ったその言葉に、心の中で力強くガッツポーズを決める。
涙が溢れそうなほど心が躍るが、ここで油断したら全てパーになる。どこかにメモに出来そうな紙はないか探していると、電話の向こうから驚くような言葉が聞こえてきた。
『ちゃっちゃと面接を始めますね』
「め、面接?! 電話越しでですか?!」
『はい。あなたは常識人ですか?』
常識人? 誰だって普通は「はい」と答えるだろうけど……自己PRの一貫なのか?
何か深い意図が隠されているのか、十秒ほど考えたが、いい答えは出ない。ええい、もう仕方ない。こんな意味不明な質問、考えるほうが馬鹿だ。
「はい、常識人です」
『採用。明日から来てね』
ツー、ツーと受話器から音が漏れる。
……軽すぎないか。
緑の受話器を耳から外し、元の位置に戻す。
一株、いやかなりの懐疑心を抱きながら、ひとまずの職と住居ができたことに胸を撫で下ろした。
明日ってことは、今日はこの公園で過ごさなければならないのだが……まぁいいだろう。
ボックスの扉を開け、星空を眺めてから、いつのまにか握り締めていた求人広告に気づく。そういえば、どんな業種だったかまだ確認してないな。
右手と左手で求人広告を開く。
「ふむふむ……侵略隊。他の星を侵略し、資材を奪い取るだけの簡単なお仕事です……」
広告を握る両手がプルプルと震えだす。
「な、なんだこの仕事ぉ?!」
公園中に叫び声が響き渡った。