夢-3
「ハッチ、今日も愛してる♪」
「はいはい、毎日御苦労様です」
放課後、私はいつものようにハッチを追い回していた。
「いい加減降参して私と付き合ってよぉ」
「そういえば大学に進学なさるんだそうですね、永田 夢さん」
「うん、だから英語も頑張ってる。ハッチ、褒めて?」
「今回の点数もそこそこでしたね。その努力は評価します。毎日の告白と共に」
「じゃ……」
毎日の告白も評価してくれてるの?!
すっごく嬉しいんだけど?!
「頑張りを認めるのと告白を受け入れるのは全く違います。残念でした」
「林田 俊哉さん」
「何でしょう、永田 夢さん」
「好きです、私と付き合って下さい!」
「すみません、無理です」
ハッチは私に頭を下げて職員室に入って行った。
「くそぉ、今日も駄目かぁ……」
私は望に今日も十二回振られたとメールをしてみた。
『まだやってたの? さっさと帰りなさい。悪化させたらダイスキな先生に会えなくなっちゃうわよ』
望のメールに私は肩を落とす。
まぁ、期待なんかしちゃいないけど。
さぁて、最後にもう一回告白して帰ろうかな。
私は職員室のドアを開けてハッチの席に向かった。
「ハッチ」
「まだいらっしゃったんですか、永田 夢さん。それよりも職員室に入る際にはきちんとご挨拶をしましょうね」
「あ、お邪魔してます三年の永田です、今日も大好きなハッチに会いに来ました告白させて下さい。で、ハッチ皆様からの許可も出た事だし告白させてね」
「誰も許可なさってませんが?」
「気にしない、気にしない」
「気にするのは当然でしょう? 僕の職場なんですから」
職員室の自分の席に座っているハッチが溜め息を漏らす。
「永田 夢さん、ここはどこでしょう?」
「やっだぁ、ハッチどうしちゃったの? 自分のいる場所も分からなくなっちゃった? 大丈夫、私の愛で治してあげるから安心して」
「それが一番不安です。ここは職員室です、分かりますか?」
「勿の論。あ、教頭先生お邪魔してまぁす」
お父さんと年齢の近そうな教頭先生に笑顔で手を振ると教頭先生も苦笑して手を振り返してくれる。
「毎日御苦労様」
甘いよ、ハッチ。
私の恋を全ての先生が応援してくれてるんだから。
「私の告白はどこででも認められてるから大丈夫、気にしないで? それよりも四千二百回記念、お祝いして? あ、英語のプリント以外で」
「それはそれは」
ハッチは鞄の中に手を突っ込んで私の掌に何かを乗せた。
「これを差し上げますから今日はもうそろそろ解放して頂けますか?」
「仕方ないなぁ。じゃあキスしてくれたら帰る」
「仕方ありませんね、では目を閉じて下さい」
私は言われるまま目を閉じてハッチの唇を待った。
チュッと何かが私の唇に触れる。
硬くて冷たい何か。
ハッチの唇ではないだろう。
周囲から笑い声が漏れている。
目を開けると、私の目の前には……骸骨?!
「きゃあっ!!」
「骸骨さんがキスしてくれましたよ、さぁ帰りましょうね」
「何でそんなものがあんの?!」
「安田先生の大事な骸骨さんですよ? “そんなもん” なんて言い方は失礼ですよ、永田 夢さん」
安田先生というのは生物の先生でイケメンだけど変わり者。
人体模型をこよなく愛していて、ハッチの隣の席はそんなものばかり並んでいる。
自分の席で楽しそうに眺めてたり、骸骨を撫で回している姿もよく見掛けるから、正真正銘の変態だ。
職業病とかって言い逃れはできないだろう。
「ハッチがキスしてくれなきゃやだ」
「永田 夢さん、貴女は “キスしてくれたら帰る” と仰いましたね」
「仰いました」
「そこは “はい” もしくは “言いました” と答えましょうね。誰がとは仰っていませんでしたので骸骨さんにお願いしたまでです。僕がして差し上げるわけがないでしょう?」
負けた……。
「他の先生方のご迷惑になりますから、そろそろお引き取り願えますか?」
「う〜っ」
「僕も困るんです」
それを言われたら粘れないじゃないか。
「ハッチ」
「はい」
「好き」
「それはどうも。僕も生徒の皆さんが大好きです」
「私だけ愛してるって言って」
「この学校に通う全生徒を愛してますよ」
本日十三回目の告白も流された。
「気を付けて帰るんですよ、拾い食いしちゃいけませんよ? 三秒ルールなんてありませんからね。知らない人に声を掛けられても付いて行かないで下さいね。声を掛けられたら子供一一〇番の家に逃げ込むんですよ」
私は幼稚園児か?
職員室から追い出されて、握らされた掌を開くとのど飴が姿を現した。
風邪気味なのバレちゃったのかな?
まさか……ね?
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次回更新……今週中にもう1回、かな?