かわいそうに
私はおばあちゃんが大好きだ。
優しくて、いろいろなことを教えてくれる。
私のことをいつも心配してくれている。
転んで擦り傷を作った時も、
「まあ、かわいそうに。大丈夫かい?」
と、声をかけてくれた。
いじめられて悩んでいた時も、
「かわいそうにねぇ、いつでも相談していいんだよ。」
と言ってくれた。
だから私はおばあちゃんが大好き。
大好き、のはずなのに。
どうしてかな、自身が無くなってしまった。
おばあちゃんが大好きなのか自身が無い。
それはきっと、おばあちゃんの口癖のせい。
「かわいそうに」っていう、言葉のせい。
私のお母さんは仕事の予定が不定期で、すごく遅くに帰ってきたり、昼頃まで家を出ないこともある。
だから大抵の家事はおばあちゃんがしてくれている。お母さんはなかなか私の相手をする時間が作れない。
それを見ておばあちゃんは言う。
「子供の相手をしない親がいるなんて、かわいそうにねぇ。」
その言葉を聞いてからだろうか。
おばあちゃんの言葉に疑問を抱いた。
お母さんはその仕事を自分で選んだ。私はお母さんが楽しく仕事ができるなら、どんな仕事でもいいと思う。それに、私の相手ができないことを誤ってくれることだってある。
なのに、おばあちゃんはそれを認めてくれないのかな。おばあちゃんはたったそれだけのことで、私をかわいそうだと思うのかな。
ある時、両親が離婚した。
私は中学生だった。
お母さんに引き取られることになって、お父さんとはなかなか会えないようになった。
その時も、おばあちゃんは、
「両親が二人揃っていないなんて、かわいそうに。」
と言った。
ある日、三つ年下の妹が学校に行かなくなった。理由は誰が聞いても教えてくれなかった。
そんな時も、おばあちゃんは言った。
「かわいそうに。妹が学校に行かないせいで、大人になってからは一人で稼がなくちゃいけないなんて。」
おばあちゃんに悪意なんてない。
それはわかってる。
でもね。わからない。
何がかわいそうで、何がかわいそうじゃないのか。
私は不幸だなんて、これっぽっちも思っていないのに。
それなのにおばあちゃんは私がかわいそうだと言う。
どうしてかな。どうしてなんだろう。
だから私は、笑顔でいるようになった。
かわいそうだと思われないように。
かわいそうだって言われないように。
私は幸せだよって教えるために。
ずっとそうしているのは疲れるけど、かわいそうって言われる方が嫌だった。
仕方ない。おばあちゃんはそういう人だから。
でも、それは間違っていたみたい。
おばあちゃんの「かわいそう」は、私以外の人に向くようになってしまった。
テレビで障害者が出演した時。
その人たちがどんなに前向きでも。
自分の不利を長所に変えていても。
幸せそうに笑っていても。
おばあちゃんは絶対、「かわいそう」と言った。
そしてとうとう、「かわいそう」は、私の大事な人に向かっていった。
私にはあまり友達がいない。人と話すのは少し苦手だから。
でも、大事な人がいる。
私と違って、両親が揃っていて、不登校の兄弟もいなくて、全然「かわいそう」じゃない人。
その子はとても明るくて、元気で、少し自分勝手なところもあるけど、優しい人。
でもその人は、他の人ができることが、苦手だった。
どこが悪いのかは分からないけど、障害がある人だった。学校でも、普通のクラスとは違うクラスで授業を受けている。
高校生になって、彼とは別々の道を選ぶことになった。
好きな時に会えないようになった。
でも私は彼が好きだった。
離れていても仲良しだった。
私たちは不幸なんかじゃなかった。
絶対に。
「あなたの友達の、あの子。かわいそうねぇ。」
そう言った。
おばあちゃんは、私たちの幸せを、不幸だと言った。
なんで?なんで?なんで?
彼と仲良しで、一緒にいると楽しくて、
どこにも不幸なんかないのに。
だから彼を「かわいそう」にしないで。
「あんな子と一緒にいるの、やめなさい。あなたがかわいそうだよ。」
とうとうそんなことを言われた。
どうして、わかってくれないの。
私は幸せなのに、それはおばあちゃんには届かない。
どうして。どうして。
「かわいそう」なんかじゃない。
幸せなのに。
どうして「かわいそう」なの。
何が「かわいそう」なの。
そう言い張るなら教えてよ。
どこが「かわいそう」なのか教えてよ。
私は、こんなに、こんなに幸せなのに。
だから私は、おばあちゃんが嫌いになった。
大嫌いになった。
だから…
横になったまま動かないおばあちゃんを見下ろしていた。
もう「かわいそう」なんて、言われない。
もう「かわいそう」なんて、言わせない。
ごめんね、おばあちゃん。
でも、私がこんなになことをしたのは。
おばあちゃんのせいなんだよ。
でも、これを知った人はみんな、口を揃えて言うんだろう。
「孫に殺されるなんて、かわいそうに。」
読んでいただきありがとうございます。
かわいそうって言葉、使い方を考えないと嫌な思いをすることがありますよね…。そんなことを考えて書きました。