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あほばかしね          

1、

あほばかしね

ぼくがそういうと今の飼い主の顔もゆがむ

でもぼくはこういう言葉しかしゃべれない

あほばかしねあほばかしね

ぼくは本当にそれ以外の言葉は知らない

そういえば、エサがもらえたからね

そういえば、水を飲ませてもらえたからね

そういえば、ほめてもらえたからね

そしてそのまま大きくなった


前の飼い主のことはよく覚えてない

その前の飼い主のことも覚えてない

その前の前の飼い主も

でもみなぼくの言葉を聞いて顔をゆがませていたのは覚えている

そして同じ言葉をつぶやくのも覚えている

こんな鳥いらないというよ


2、

……ヒナだったぼくを育てた人を思い出せる

黒くて長い髪を持つ女の人だ

哀しい瞳をしていたよ

暗い部屋でぼくだけを見ていた

話す言葉はあほばかしねとしか言わなかった

今から思えばその人は狂っていたかもしれない

だけどぼくの大事な人だよ

ぼくは教えられた言葉を覚えた

あほばかしねあほばかしね

その女の人とぼくだけの世界

暗い世界で一人と一羽で

あほばかしねあほばかしね

そう唱えていた

ある日女の人はどこかへ行ってしまい

それきり帰ってこなかった

それからぼくはいろいろな家に飼われた

それだけの話


その言葉は人の心を傷つけるらしい

ぼくはその言葉以外に話すことができない

あほばかしねあほばかしね

あなたは九官鳥のきゅーちゃんよ

あほばかしねあほばかしね

きゅーちゃん、おはようは?

あほばかしねあほばかしね

だめだこれは最初の飼い主が悪い

かわいそうな鳥ね、一生このままね

あほばかしねあほばかしね


こいつむかつく鳥やな

あほばかしねあほばかしね

やっぱむかつくエサやらんぞ

あほばかしねあほばかしね

水もやらへんで

あほばかしねあほばかしね

どや、ちっとはコタエたか?

あほ……ばか……しね、あ……


3、

……この子は前の飼い主さんに虐待されていたそうよ

あほばかしねあほばかしね

そんな言葉ばかりいうのよ、かわいそうにね

あほばかしねあほばかしね

大丈夫よ、あなたには罪はない

あほばかしねあほばかしね

私はエサも水もあげるわよ

でもあなたは外に出せない

あほばかしねあほばかしね

他の鳥と一緒にもできない、だって悪い言葉を覚えてしまうから

あほばかしねあほばかしね


……そこにはほかの九官鳥もいたな

みんないい子だったみたいだ

おはよう

こんにちは

いい天気だね

ぼくだけが小さな暗い部屋にいた

ぼくは孤独に叫ぶ

あほばかしねあほばかしね

狭い四角い鳥かごの中で羽をばたつかせて運動する

あほばかしねあほばかしね

これがぼくで、もうこれ以上変えようがないぼくだ

あほばかしねあほばかしね

ごめんねこんなぼくで

でも最初にぼくを育てたあの人に

悪い言葉をぼくに教えたあの人に

もう一度会いたい

あほばかしねあほばかしね

あの人に会えたらこの言葉を誇らしく叫ぼう

あほばかしねあほばかしね

きっとあの人はほめてくれるだろう


4、

……生まれ変わったらぼくは人間になって

あの人は鳥になる

ぼくはエサをあげて育ててあげる

そしてあの人にこの世で一番美しい言葉を教えてあげたい

今は言えない言葉だけど、生まれ変わったら言えるだろう

愛しているよって

そうさ

お互い練習すれば、きっと言えると思うんだ

そして人間になったぼくは途中でいなくなったりしない

鳥になったあのかわいそうな人をやさしく抱いてあげよう

あほばかしねあほばかしね



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