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最弱の竜は最強の竜狩りと恋をする  作者: しき
第三章 竜と竜狩り
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3-10.似て非なる味方

 四日目の正午、戦士団総本部の一階に一次試験合格者の名前が書かれた紙が張り出された。クリフはその紙に自分の名前が書かれていることを確認すると、その場で拳を作った。

 合格している自信はあった。それでもこうして合格したことを知ると、喜ばずにはいられなかった。


「ようクリフ。おめでとさん」


 背後からガリックに呼びかけられた。「どうも」とクリフは平静を装って答える。


「なんだぁ、平然として。一次試験合格だぞ。もっと喜べよ」

「まだ一次だ。これから本試験があるのに気を抜けるか」

「さすがだなぁ。ま、お前なら行けると思うぞ。じゃ、また後でな」


 ガリックはクリフから離れ、アーデミーロから来た他の戦士の下に向かう。その戦士は顔を伏せており、見るからに落ち込んでいた。おそらくほとんどの戦士が彼と同じだろう。同じ町で一次試験に合格したのは、クリフの他にはあと一人だけだった。

 彼らは皆、実力もやる気もある戦士だった。それでも一次試験に落ちてしまう。昇格試験の厳しさを、クリフは彼らを見て思い出す。合格しても気を抜いてはいけない。彼らの無念を晴らすためにも合格しよう。


「合格者の皆様は、二階の第一会議室に行ってください。最終試験の説明をいたします」


 職員が戦士たちに呼びかけていた。クリフを含めた一次試験合格者が二階に上る。会議室に入ると、長方形型に長机が配置されており、机の上には筆記試験と同じように名札が置かれている。クリフは自分の名前を見つけると、その席に座った。他の戦士も席に座り、十分もすれば名札が置かれた席が全て埋まった。


 全員が座ってしばらく経つと、面接で試験管を務めたマルコとギルが会議室に入ってきた。彼らは一番奥の席に座ると、「では、最終試験の説明をしよう」と説明を始めた。


「最終試験は黒竜との戦闘だ。複数人でチームを組み、メンバーと協力して黒竜の討伐をしてもらう」


 マルコの説明に誰も驚くことはなかった。昇格試験の最終試験が黒竜との戦闘であることは、戦士なら誰でも知っているほど有名だ。受験者は皆、元からその覚悟で試験に挑んでいた。


「チームは四つに分かれる。五人組一つと四人組三つだ。チームは名札の左上に書かれた数字が一致している者同士で組んでもらう」


 クリフは自分の名札を確認した。「四」と書かれている。


「メンバー構成の異論は認めない。竜狩りの戦士ならば、例え味方が万全の状態でなくても黒竜と戦えなければならない。それを心得るように。……ギル」


 ギルが戦士たちに紙を配る。配られた紙には黒竜の情報が書かれてある。しかし、大きさ、体格、黒竜化の侵食具合といった外見から分かる情報だけだ。


「その資料には、各チームが戦う黒竜の最低限の情報のみを載せている。その資料とメンバーの実力を考慮して戦闘に挑め。質問はあるか?」


 マルコの発言後、戦士たちが質問をし始めた。


「戦場は何処になりますか?」

「特別訓練場だ。実技試験を行った訓練場の倍程度の広さだ。何もない平地での戦闘になる」

「道具の使用に制限は?」

「無い。が、自分たちが竜狩りとして黒竜と戦うことを想定して挑むように。つまり、この一戦に限って過剰な資金を注ぎ込むことは控えるように」

「今回の、戦闘では、倒すことだけに、専念すれば、良いのですか?」

「本試験に限りそれを認める。戦闘で施設が破壊されても評価には影響しない」


 各々が質問をし、マルコが即座に返答する。その間、クリフは同チームの様子を窺った。

 クリフのチームは四人組。他のメンバーは質問をせずに黙っている。一人は皆の質疑応答を聞き、一人はじっと資料を眺め、一人は資料に文字を書き足していた。


 彼らの様子を眺めていると、「他に質問はあるか?」とマルコが言う。どうやら他の戦士たちは質問し終えたようだ。

 その様子を見て、クリフは質問をした。


「最終試験の合否に、一次試験の評価は影響しますか?」

「……ない。一次試験は一次試験、最終試験は最終試験だ。たとえ一次試験で高評価でも、最終試験でミスをすれば合格にはならない」

「分かりました」


 クリフの後は誰も質問をしなかった。それを察したマルコが告げる。


「では説明は以上だ。明日八時に開始する。時間までにこの第一会議室に来るように」






「ただいまー」


 夕方、クリフは宿屋に帰っていた。部屋の扉を開けると、テーブルで花札と呼ばれるゲームをしていたロロとシヅルがこっちを向く。


「お帰りクリフー」


 そう言ってロロが近づいて来てクリフに抱き着こうとする。クリフは右手でロロを止めた。


「待て」

「はい」

「姿勢」

「んっ」ロロがその場に姿勢正しく直立する。

「よし」クリフが左手に持っていた紙袋を渡す。

「わーい」それを受け取ったロロはその場で紙袋を開けた。

「おー……なにこれなにこれ?」


 赤い球が棒の先にくっついている食べ物を見ながら、ロロが尋ねる。「リンゴ飴だ」クリフが答えるとロロは目を輝かせて齧り付く。「んー……おいしっ」満足そうな笑みを見せていた。


「まだあるから、シヅルにも上げろ」

「はーい。シーちゃん食べよっ」


 ロロがシヅルに紙袋に残っていたリンゴ飴を渡す。シヅルは椅子に座ったままそれを受け取った。


「ありがとうございますますー」


 シヅルはリンゴ飴を舐め始める。二人に渡ったのを見て、クリフは椅子に腰を下ろした。


「その様子だと、合格したようですですね」

「あぁ」

「そっか! おめでとークリフ」

「おう。ありがとな」


 ロロがテーブル付近の椅子に座る。


「じゃあ今までは最終試験のための準備をしてたのですですか?」

「そうだ。チームで取り掛かるからメンバーと打ち合わせをしてた。一次試験みたいにはいかなそうだ」

「そうなのですですか」


 一人で挑むのと仲間と戦うのでは勝手が違う。仲間の動向を気にする必要があるからだ。上手くいっているときは問題ないが、そうでなければ一人のときよりも面倒が増える。メリットは大きいがデメリットも大きい。そのリスクを減らすためにも、仲間と打ち合わせを行った。


「どんな人とやるの?」

「そうだな……ま、曲者ぞろいって感じだな」


 メンバーは、最終試験の説明中にずっと皆の質問を聞いていた男性のウィル、じっと資料ばかりを呼んでいた女性のエノーラ、資料に文字を書きこんでいたグレン、そしてクリフの四名だ。皆クリフよりも年上で、戦士歴の長い人たちだった。


 打ち合わせ中、クリフは話をしながら彼らの様子も窺った。ウィルは五回目の受験で、過去に最終試験に二度挑んでいる。顔から真面目な印象を受けたが、口から出る言葉には消極的なものが多かった。エノーラは二回目の受験で、最終試験は初めてだ。どこかエリザベスを彷彿とさせる雰囲気があった。打ち合わせであまり喋らなかったが、数少ない発言はかなり的を得ているものだった。グレンは四回受験し、今回初めて一次試験を突破していた。打ち合わせでは一番多く発言していたが、出てきた言葉の中に有効な情報となるものは少なかった。

 クリフがメンバーのことを話すと、シヅルは「曲者というほどではないのでは?」と疑問を口にした。


「多少変わったところはありますますが、これくらいの長所短所は人ならだれでもあるものですです」

「あぁ、そうだな……。俺の友人に似たような奴らが居なかったら、同じ意見だったよ」


 彼らの振る舞いから、友人たちの姿を重ねていた。ウィルはルイスに、エノーラはレイに、グレンはケイトに似ていた。別人だとは分かっていても、一度そう思うとその印象が離れなかった。

 しかし今に限れば好都合だった。


「だがお蔭で上手く戦えそうな気がするよ。あいつらと似ているのなら、それを活かせばいい」


 少々勝手が違っても問題無い。クリフは最終試験への自信を得ていた。


「クリフ様が良いのであればかまいませんが……そう言えば、ちょっと気になることがあるんですですが」


 シヅルが話題を変えた。


「昨日、ちょっと事件が起こったみたいですです。本家に寄らずここに来たので詳細は掴めていませんが……」

「大事なのか?」

「要望があれば調べますが、それだとここに来るのが遅れてしまいますます。どうしましょうか?」

「そうだな……」


 事件と聞いて、クリフは気になっていた。今日の最終試験の説明会では、試験管が何も言わなかったため試験には影響無さそうだ。しかしロロの事があるため、少しでも危険を減らしたい。そのためにも情報は必要だ。


「じゃあ調べてくれ。いつ分かる?」

「簡単な情報ならば翌朝には。詳細まで調べるとなると、夕方までは掛かりますます」

「分かった。それで頼む。よろしくな」

「畏まりましましー。では!」


 シヅルは飴を舐めながら、すぐさま部屋を出て行く。クリフはシヅルの迅速な行動に感心した。


「じゃあ……」


 ロロが呟いたと思ったら、すぐに言葉を止める。そして何事も無かったかのように飴を食べ続ける。

 その顔は、どこか寂しそうに見えた。


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